10/18の日記
23:30
土産
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薩摩より西郷さぁが入京されもした。京都詰の藩士はこぞってせごさぁの顔を見に来て、息をつく間もない有様。そこに大久保さぁがおいでになり、しばらく出かけてくるとおいに申された。
これではいくら藩邸とはいえ気が休まるはずもない、と大久保さぁらしい気配り。
「一さぁは相変わらずじゃ。おいはこれでんよか言うちゅうんじゃが」
柔和な笑みでせごさぁがおいに言う。大久保さぁをいまだに一さぁと呼ぶのはもうこのお方ぐらいじゃと思うと、なぜか少しだけ息が詰まるような気持ちになる。
来客を体よく返すのは慣れたもんじゃが、残された藩邸でつい頭に浮かぶんはせごさぁと大久保さぁのことばかりじゃ。幼い頃から苦楽を共にしてきたお二人じゃ、今更おいがどうこう言う筋合いはないちゅうこともようくわかっている。
大久保さぁがせごさぁのお体を心配するのはまったく当然。
なんとはなしに苛立った気持ちで夕方を迎える。まだ戻らんかと思う矢先にお二人の影が遠くに見え、安堵する。
やがて近づいたせごさぁがくすくす笑っておるのに気付いた。どうしもした、と尋ねると、何とも言えない笑顔で、おはん杵屋ちゅう菓子屋を知っちょいもすかと可笑しそうに聞く。
それはおいが、時折内緒で好物の饅頭を買いに行く店の名じゃった。わけがわからんまま頷くと、一さぁがいいもんを買うておじゃした、とまた笑う。
その後ろに、苦虫を噛み潰したような大久保さぁがおいでになって、その憮然とした顔のまま小さな包みをおいに押し付ける。
あとで見ろ、と言い捨てて大股に藩邸の中に入っていった。せごさぁは開けてみいと言い、小声で一さぁずっと、半次郎どんが心配しよると気にしとったんじゃが、こいはその埋め合わせじゃなかねえ、と言われる。
そいはもったいなくて開けられもはんな、と半ば本気でせごさぁに言うてしもうた。
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