08/10の日記

11:50
花街
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大久保さぁの供で、島原へゆく。会合だと言う事でおいは別室に控える。大久保さぁは用が済めば遊ばずに帰るお方なので、廓遊びが好きな他藩の藩士からは頗る評判が悪い。茶屋の中には長州の方々は湯水のように遊郭で金を遣うが、薩摩様はけちだ、と陰口をきく者もいる。

今日は些か遅い、と思っておったらお茶っ引きの妓が暇潰しに来た時、大久保さぁを敵娼が引き留めておるとくすくす笑いながら言っておった。

天下の大藩ゆえに様々な思惑の誘いは多いが、にべもなく断る大久保さぁが、今日は珍しいと少々驚く。一刻ほど経って、やっとお帰りとの知らせに玄関で控えて待っておると、非常な不機嫌振り。帰りの道すがら尋ねてみると、なんと敵娼の妓がおいの素性を根掘り葉掘り聞いてきたとの事。すわ間者かと眉をひそめたら、じろりとこちらを睨んでちがう、と一言仰った。いやしくも島原の芸妓がはしたない真似をするから、よくよく言って聞かせたと意味のわからぬ言葉に続いて、半次郎は田舎者で女子にやる贈り物ひとつ満足に選べぬし、大飯喰らいの上阿呆みたいに棒切ればかり振っており、およそ女心の機微など推し量ることなどできない朴念仁だと言ってやった、と一気にまくし立てられる。要領を得ぬので、結局大久保さぁに害を為す者ではないのでごわしょうか、と聞いたら当たり前だと怒鳴って、さっさと歩き出してしまわれた。慌てて提灯を持って後を追うと、すぐ後ろを歩くおいの耳に、こんな鈍い男のどこがよいのだ、と呟く声が聞こえた。





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