幕恋hours short
□夕涼み
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「慎太はの、ワシが深雪の手を握っちょったき、怒ってるんじゃ」
「そんな・・・」
だって、武士らしくないって怒ってたんだよね?慎ちゃんは真面目で常に自分を律してるようなところがあるから、焼き餅なんてそんな理由じゃないと思うんだけど。
「ワシは深雪に涼を分けて貰っておっただけなのにのう」
「涼・・・?」
慎ちゃんは不思議そうに私を見た。
私は少しだけ水気の残った手を上げて、慎ちゃんに見せる。
「濡れた手を顔にあてると、ちょっぴり涼しいみたい」
「へえ・・・。それで手を」
「うん。ごめんなさい」
謝ると、慎ちゃんは慌ててぶんぶんと手を翻した。
「姉さんを責めてるわけじゃないっス!俺は・・・」
「慎太もやってもらいたいんじゃろ?」
「なっ・・・!!違います!」
慎ちゃんは真っ赤な顔で龍馬さんに食って掛かっている。
「ほれほれ、こんなに汗かいちゅう。まっこと暑そうじゃ」
そう言うと、龍馬さんは慎ちゃんの後ろにいる私にそっと目配せをした。
よく見ると私の足元の桶を指差している。
まさか・・・・。
「可愛いのう慎太は。深雪の手は柔らこうて気持ちいいぞ」
反論する慎ちゃんの相手をしながら、早く早く、と目線で促されてつい私は桶に手を突っ込んだ。
「ほれ、どうじゃ慎太郎!!」
手招きされて、後ろから近づいた私の手をいきなり取ると龍馬さんは慎ちゃんの頬にびたっとあてた。
「ーーーーーー!!」
私と龍馬さんに挟まれるように慎ちゃんがいて、私はまるで背後から慎ちゃんに抱きつくような体勢になってしまった。
「ね、姉さんっ!!」
「わははは!!慎太郎良かったのう!」
「・・・・確かに、気持ちいいかも・・・知れないっス」
ぽうっと頬を赤らめた慎ちゃんの発言に私はぎょっとした。
「ちょ・・・慎ちゃん?」
「もっと、やってもらえますか?姉さん」
くるりと振り返った慎ちゃんに、今度は龍馬さんが仰天した。
「だ、ダメじゃ慎太、これはワシのもんじゃき!」
「今更何を・・・この気持ちよさを知っちゃうと、そう簡単には諦められないっすね」
にやり、と慎ちゃんが笑った。
その黒い笑顔に含まれているものは・・・。
「ダメったらダメじゃ!逃げるぞ深雪!」
「きゃあっ」
龍馬さんは私を軽々と抱えると、慌てて逃げ出した。
後ろを見ると、慎ちゃんがぺろりと舌を出して笑っている。
結局、からかうつもりがからかわれてたのは龍馬さんみたい。