幕恋hours short
□おまえがすき
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やがて、晋作さんは名残惜しそうにそうっと唇を離した。
わたしの涙は、突然の口付けにびっくりして止まっていたけど、零れ落ちた滴を晋作さんはちょっと笑いながら指で拭う。
「深雪・・・」
晋作さんの声がいつもより低い。
見上げると、真剣な瞳がわたしを見つめている。
「・・・・俺は、お前が、欲しい」
突然の言葉に返事ができない。
いつも元気で迷いのないように見える晋作さんだけど、こんな躊躇うような顔は初めて見る。
「でも、お前はいつかもといた世界へ帰ることになるだろう。そんなお前に余計なしがらみを背負わせるのは俺の本意じゃない。」
「・・・晋作さん」
やっとの思いで名を呼ぶと、晋作さんはにっと笑って私を抱き締める腕を弛めた。
・・・それを、少しだけもどかしく思う私がいた。
「いつもふざけてお前に惚れたのなんだの言っていのは、お前に俺が本気だとわかって欲しかったのかも知れん」
「晋作さん、わたしは・・・」
「でも、お前は帰らなくちゃならない人間だ。今言ったことは忘れてくれていい」
どう答えたらいいのかわからなくて、わたしは晋作さんを食いいるように見つめた。
「お前の唇は・・・思ってた通り甘かったな」
晋作さんの瞳が、これ以上何も言うなと訴えているようで言葉を失う。
笑っているけど、笑っていない。
わたしは未来に帰るから、だからこれ以上私たちは先には進めない。晋作さんは暗にそう言っているんだろうけど。
もうひとつの理由を、私は知っている。
それは、この時代では不治の病と恐れられている病気・・・労咳。
私と晋作さんの間にある深い川の名前は、未来ではほぼ克服された病、結核だった。