幕恋hours short
□曇りのち晴れ
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大きく広い薩摩藩邸のちょっと離れた座敷から、夕刻ごろから賑やかな笑い声が響いてくる。
時折怒号のような威勢のいい唄が聞こえてきたり、どっと笑う声が上がるのをぼんやり聞いていた。
(楽しそう。大久保さんもあんな風に大きな声で笑ってたりするのかな?)
一瞬思ったけど、やっぱり似合わないような気がしてくすりと笑う。
きっとあの、涼しげなすまし顔で賑やかな宴席の中心に座っているんじゃないかな。
酔って大騒ぎするのは、大久保さんの美意識からはかけ離れているんだろうから。
昼間はやっぱり長州藩にお世話になった方がマシだったかと思ったけど、夕餉を頂いて広いお風呂に入り、用意して貰っていた仕立て上がったばかりの浴衣に手を通したら、すっかりいい気分になってしまった。
「のど・・・乾いたなぁ」
ふと思いついて、私は台所へお水を貰いに行くことにした。
一応大久保さんの忠告を聞いて、部屋からはほとんど出ていなかったけど、お水を飲みにいくぐらい、いいよね。
長い廊下をそうっと歩き出す。
宴の真っ最中の部屋は、お運びへの気配りか厨房の近くにあった。
その部屋をなるべく避けるようにして、台所の戸口を目指していた私の腕を、不意に掴む者がいた。