幕恋hours short
□いつかきっと
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「確か夕方、中岡に風呂が空いたと言われておったと思ったが・・・」
「あ、いえ・・・」
なんとなく言いづらくて言葉が続かない。
「何かあったのか?」
訝しげに見つめる龍馬に、心配をかけてしまったかと慌ててしまう。
「あの、お風呂はいつもしまい湯を頂くことにしているんです」
龍馬は一瞬目を丸くして深雪を眺めて、咎めるように眉を顰めた。
「それでこんな遅い時間に起きちょったのか・・」
「はい」
俯いて答える。
龍馬はなにか思案しているようで、杯を上げた手を止めたままだ。
「・・・みんなが無事帰って来て、ご飯を食べてお風呂に入ると、私やっと安心できるんです。よかったなあ、って思いながらお風呂に入るのがほんとに嬉しくて・・・」
思い切って告げると、龍馬ははっとしたように深雪を見る。
「そうじゃったんか。深雪はそんなふうに思っとったのか・・」
「きゃっ」
不意に腰に手が回り、ぐっと引き寄せられた。
間近に龍馬の顔が迫り、深雪の顔がたちまち赤く染まる。
(こんなちかいなんて、恥ずかしいよ・・っ)
「深雪はまっこと優しい女子じゃのう。惚れ直したぜよ」
「もう!龍馬さん、酔ってるんでしょう。からかわないで下さい!」
照れ隠しも相まって、怒ったように叫ぶと龍馬はにこにこ笑い、さらに身体を引き寄せた。
「からかってなぞおらん。本当にそう思ったんじゃ」
心臓の音がうるさいくらい早く鼓動を打っている。深雪は龍馬から立ち上る香しい酒の香りと動悸に、目眩のような感覚を覚えた。