novel

□無題
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男であろうが女であろうが魅力ある人とは、どこか匂い立つ。
それはわざとしどけない仕草を演じる、肌の露出を増やすというあからさまなものではない。

そこにいるだけで引き寄せられ、その芳香を独り占めしたいと感じるのだ。

そう、目の前にいるこの人のように。

髪から始まり、顔、耳、首、鎖骨に鼻と唇を寄せ、その匂いの元となるものがないか探っていく。
知らぬうちにスンスンと鼻を鳴らしていた。

「お前は犬か」

いつものように鼻で笑って揶揄されようが、薄く笑い返して構わず探り続けた。
犬のように鼻が鋭くあれば、この正体を探り当てることができるのに。
ぺろりと舌で舐めても、感じるのは汗の塩。
もっと獣のような直感力と鋭敏な感覚でも養えば可能だろうか。

「おいにはわからん」

ため息と共に本音を吐き出す。
まるで宝物の如く魅力を隠しているこの人を掌握できる日など来るはずがなく。
むしろ掌で転がされ、常に試されているような錯覚に陥る。

だが、それでいい。

簡単に暴くことができるなら、こんなにも惹かれない。
命を賭して端から護衛しようなどと思わない。

それに吉之助を越える唯一無二の存在になりたいのだ。
一生を賭けて挑まなければ到底成し得ない。

「だから面白い」

意外にも呟きに返事が返ってきた。
艶々しい唇を僅かに引き上げ、こちらを挑発的に煽った。

同じ様に感じた感情をのみ込み、心の臓あたりに強く吸い付く。
左右の頂を同時に弾けば、組み敷いた身体に旋律が走る。

まだまだ開拓途中の互いの関係をより絆へと結び付けるため、要らぬ雑念は切り捨てた。

今はただこの芳香に溺れよう。

次に息を吸った時この正体が分かるなら。




*end*

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半次郎の思いはいつもまっすぐで純粋。
手に届かないからこそ永遠に追う苦しさと喜び。すごいツボですwありがとうございます!




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