novel

□寛仁大度
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半次郎が触れた利通の前髪がさらりと揺れた。

普段覆い隠している右目を顕わにすると、情欲に濡れた双眸が怪しく誘う。全ての相貌を間近で拝見できる特権は自分のものだけだと思っていた。

それなのに利通は時代に合う服を着るために髪を切るのだと、あっさりと告げる。

その刹那、半次郎の理性は崩れた。

不可侵の領域であるはずの利通をこの手で汚したいという衝動が際限なく沸き起こる。どうせ晒すのならば、自分に一番初めに全てを晒せばいいと、半次郎の本能が叫ぶ。

「何をする気だ?」

そう言葉を紡ぐ唇を指先で封じると息を呑む振動が伝わる。全てを分かった上で言葉にするのであれば、今までの信頼関係は幻だったのか。

それとも確認か。

言葉を操る利通に言葉でしか伝わらないのなら告げるべきだろう。だが指先から伝わる熱が徐々に冷え緊張している事が解る。

「大久保さあ」

掠れた声で名を呼べば、双眸が横へ逸れる。常に人を正面からしか見据えない利通が逸らした意味。

それは確認。

許可された、と半次郎は感じ取った。

ふっと柔らかい笑みを形作り、両手で顎を掬い間近に映す。ぱらりと元の位置に戻る前髪を指で押さえ、頬を寄せると柔らかな感触がした。生え際から髪先へ辿るように唇を這わす。

髪の一本ですら愛おしく、他の誰にやるにも惜しい。

もし自分が利通の傍を離れ、戦場へ赴くことになればこの髪を懐に忍ばそうと心に誓う。そして利通にも誓いを立てさせるつもりでいた。

唇が髪から肌へ滑る直前、半次郎の視界が暗闇と化す。利通の手が二人の間を遮ったのだ。

「お前は踏み込むのか」

自問自答とも取れる呟きに半次郎は目を瞑った。唇を手の平に押し当て、問いの答えを返す。大きいが半次郎より薄く滑らかな肌。刀ではなく口と筆で闘う者の証。

「覚悟は胸に秘め、行動に起こすもです」

鼻で笑う音と共に視界は開かれた。視線は正面から交わり、闇の中で情熱を孕む。親指で利通の唇をなぞると乾いた感触がした。

なぞった後を這うように舌で舐めると、唇は潤いを取り戻す。唇を盗めば、その度にちっと水音が立つ。

利通の覆う物を何もかも剥ぎ取り、白い体躯を顕わにしても、前髪だけはさらりと右目を隠す。それが利通の最後の抵抗のように思えて、尚愛しさは募る。自身も無造作に服を脱ぎ捨てた。

半次郎は利通の背中に手を回し、ゆっくりと体を横たえさせる。敷かれた手を下にずらせば自分よりも細く柔らかな腰に情欲が増す。

溺れるように利通の鎖骨に食いつけば、月光に照らされた肩が痙攣する。僅かに逸らした喉元から喉仏の形が浮かぶ。舌と唇で交互に攻め立て、喉仏に到達すると強く吸いついた。

「………っ」

思いもよらぬ愛撫に利通の口から息が漏れた。

半次郎が顔を上げると、首の真ん中に大きな赤い痣。洋装を着用しても目立つ場所に所有の印を付ける。反応を見たくて顔を覗きこむと、利通は目を固く閉じていた。

何故か寂しさを感じ、唇に手を当て半開きにさせると、利通は目を開いた。指先で歯に触れ、ねじり込むように侵入すると、熱い舌が指先を舐める。指の本数を一本から二本に増やすと、水音が鳴り唾液が口端から零れそうになる。

啜るように唾液を舐めれば、また利通の視線と絡み合う。流れに抗うことなく唇は合わさる。

「これから先も道連れだ」

合間を縫うように漏らされた言葉に半次郎は笑みがこぼれた。全てを手に入れるのならば、自身を与えることなど厭わない。

「そげんこたぁとうに」

それが合図となり、利通は半次郎の首を掴んだ。角度を変え何度も重なる唇から淫猥な水音が漏れ聞こえる。利通の髪が別れを惜しむように何度も半次郎を這い巡った。

半次郎は静かに体を起こし、数日後には自分の懐におさまるそれに、情愛を込めて口付けを落とす。

「やけに執着するな」

少し息を乱した利通が揶揄すると、半次郎は目を細めた。

「利通さあのすっぱいは俺のもんじゃって」

ふんと鼻を鳴らして、利通は半次郎の喉元に噛み付いた。もし跡が残れば情事の相手は明確だ。

「なら満足させてみろ」

「わかりもした」

重なる二つの体躯が熱を帯び始める。月光の中で薩摩の雄は熱く夜は更けゆく。





【寛仁大度: 寛大で慈悲深く、度量の大きいこと】


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半×利というCPのキモって、主従関係の微妙さとか、大久保さんの頑なさとその内側の弱さ・・・っていうか鎧の内側はひりひりするくらい粘膜剥き出しなとこ、そこにどのくらい踏み込むかっていうのにすごく惹かれるんです。私は。
外側のガードが堅い分、内面に触れる、蹂躙する喜びっていうか。

そんな部分をうまく拾ってくれた、素敵な作品ありがとうございました!全裸待機のBL好きな皆さん(爆)お待たせしもした〜ww

あの日の断片が、こんな萌え作品に仕上がりましたw

はんりさま、ありがとうございます!


・・・・・ぜひ、次作も期待しております!!にししっ♪





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