幕恋男子部

□爛華
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ぽたり、ぽたりと袴を伝い垂れる滴に、なぜか追いつめられるような錯覚を覚え、私は踵を返した。



黙って頭を下げる半次郎を、背後に感じて。





人払いをして自室に戻ると、熱に浮かされたように私は袴の帯を解いた。

下帯を緩め、突っ込んだ手に触れた自分自身の熱さに躊躇したが、どうにもならない焦燥感のような欲望に負けて、そっと握りこんだ。


「・・・・・・ふ・・・っ」


脳裏に見え隠れするのは、あの男の氷のような目。人を斬る為に一時心を閉ざす時、人外の者のような、光のない漆黒に変わる瞳。

岡田もそうだ、と言っているのを聞いた事がある。そうでなければ人など斬る事はできもはんなぁ、と寂しそうに言っていた。

人でないなら、なんなのだ。


そう問うた私に、半次郎は困ったように微笑った。


「・・・・っあ、う・・・・」

欲望の命ずるままに、手を上下に動かし自分のモノを扱きあげる。
合わせに片手を差し入れ肌に手を這わせると、ひやりとした感触にますます欲が募る。


「・・んっ・・・・んっ・・」


屈みこんで尽きぬ衝動を宥めるように、手の動きを繰り返す。心の中であの男の名を呼びながら。
その時、襖の外から控えめな声がかかった。

「・・・・失礼しもす」


はっとして身繕いをしかけたが当然遅く、半次郎が襖を開いて入ってきた。


「・・・人払いを、した筈だが」

「大久保さぁがお具合が悪そうじゃと聞きもした」


緩んだ胸元と袴が目に入ってもいないように、半次郎は平然と言う。

その眼は、まだ獣のまま。



「・・・具合・・・悪そうですな」



その瞬間、私の腕は易々と半次郎に掴まれ引き寄せられていた。







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