幕恋hours long
□大さまとわたし・11
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「心配してくれてありがとう。お団子美味しかったです」
団子屋の店先でぺこりとお辞儀をすると、沖田さんは笑顔で頷いた。
「君に暗い顔は似合わないよ。まだしばらく落ち着かないかもしれないけど、大久保さんなら大丈夫でしょう。信じて待つんだね」
「…はい」
心の中でごめんなさい、と呟く。成り行きとは言え利用したみたいで気が引けるけど、この幸運を見逃すわけにはいかない。
じゃあ、と歩み去っていく沖田さんの後ろ姿にもう一度頭を下げる。
そして、わたしはある決心とともに沖田さんとは反対方向に歩き出した。
ふと顔を上げると、太陽はやや傾きかけた頃。多分午後3時くらいだろう。
紅葉は確か、今夜と言っていた。一力というお茶屋さんには確か一度だけ大久保さんに連れられて行ったことがある。とても大きくて立派なお店だった。
なんとか、あの中に入り込めたら。
ううん、たらればの話じゃない。わたしは今夜、あのお店に行く。
ふと、小松さまや半次郎さん、そして紅葉の顔が浮かんだけど、もうわたしの心は決まっていた。
建前なんてどうでもいい。とにかく大久保さんに会いたい、そして無事でいることを確かめたい。
何かがあってからじゃ、後悔なんてなんの役にも立たないもの。
まるで見えないなにかに急かされるように、わたしは足を速めて藩邸への道を急いだ。