幕恋hours long
□大さまとわたし・7
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門まで出てくると、平助君が大久保さんと話していた。
わたしに気づくと手招きをしてくれて、小声で言う。
「よかったな、帰れて」
にやっと笑って、肩をポンと叩かれた。うん、と頷いてちらりと大久保さんを見ると、腕組みをして知らん振りで向こうを見ている。
「深雪さあ!ご無事でよかござした、おいは心配で心配で…」
その横から半次郎さんが顔を出して、嬉しそうに声を掛けてくれた。
でも、大久保さんは黙ったまま。
「あの……」
「愚図愚図するな。帰るぞ」
たった一言だけ、そう言って歩き出す大久保さん。謝る機会を失ったわたしは、平助君に挨拶をしてから慌ててその背中を追う。
「お待たせしもして申し訳あいもはんでした。深雪さぁがここにいる事を確かめてからでないと、動くことができんかったもので」
半次郎さんが横を歩きながら申し訳なさそうに言う。
「そんな、わたしが悪かったんです。勝手なことして、ほんとにごめんなさい…」
大久保さんが怒るのも当然だ。あんなふうに感情的に腹を立てて、一人で知らない場所をうろうろするなんて。
今までだって大久保さんから京の町の危なさを散々言って聞かされていたのに、そんなことも忘れていた自分が恥ずかしい。
「この数日、生きた心地がしもはんでした。あの連中はほんに恐ろしい奴らでごわすから」
半次郎さんはしみじみとわたしを見て安堵の吐息をつく。半次郎さんはとっても強いと聞いているけど、その半次郎さんが恐ろしいっていうひじかたさん達は、いったいどれ程なのかと今更ながら背筋がぞっとする。
同時にあのとき、男の人たちに囲まれた記憶が不意に思い出されて、わたしは身を震わせた。
「…やはり、何かありもしたか…?」
「あ、ううん、大丈夫です!」
怖かったけど、その話をするのは何故か憚られるような気がしてわたしは無理に笑った。
半次郎さんはそんなわたしを追及することなく、優しく頭を撫でてくれる。
その後の藩邸までの道のりは、わたしにとって今までで一番長く、苦しく感じるものだった。