幕恋hours long

□大さまとわたし・6
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「なんだってこいつは、いつもいつも寝てやがるんだ…?」



一刻ののち、襖を開けた土方の前には、畳の上で眠る深雪の姿。
風邪を引くような時期ではないが、猫のように丸くなって寝息をたてる姿はまるで子供のようにあどけなく、伸ばしかけた手が思わず止まった。


「くそっ」


そのまま立ち上がると、部屋の隅に積んであった煎餅布団を引っ張り出し、乱暴に敷き始めた。敷布もなく饐えた匂いが鼻を衝くが、隊士連中も大差ないような布団で寝ている。恨むんじゃねえぞと心の中で呟いて、何を言い訳しているんだとふと可笑しくなる。

向き直るとまだすやすやと眠る深雪の姿が目に入る。


「よ…っと」


躰の下に手を差し込み、起こさぬようにそっと持ち上げる。
存外かるい、とかすかな驚きに目を瞠った瞬間、深雪の唇が僅かに動いた。


「お…くぼ…さん」



細い指が、抱き上げた胸の合わせをきゅっと掴み、土方はなぜか苦い気持ちで深雪の顔を見下ろした。


「馬鹿野郎。あんなひねくれた奴と俺を一緒にすんな」


「……ん…ん?」


囁くように言葉を紡いだ途端、深雪がぱっと目を開いた。そして、みるみる驚きに染まる瞳。



「きゃああああっ!放して!!」

「ばっ…危ねえっ」

あまりの近さと、先ほどの恐怖を思い出したのか、深雪は全身の力を込めて土方の胸を強く押した。
その反動でぐっと後ろに反れた彼女の躰を、土方は落とすまいと支えたまま前に数歩のめり、二人一緒に布団の上に倒れ込んだ。


「やっ、いやーっ!!」

「ちょっと待て、別に俺は…」

必死で逃げようともがく深雪に土方の言葉は届かず、ただひたすら土方から離れようと身を捩らせる。その頑ななまでの拒絶に言いようのない苛立ちが土方を襲った。


「この…いいかげんに……!」


「…んっ」





胸を叩く両の手首を布団に縫い留め、嫌だと叫ぶ唇を、土方は己のそれで塞いだ。


見開いた瞳を至近距離で見つめると、やっと焦点が合ったようにはっきりとこちらを見返すのがわかる。

甘い吐息を飲み込むように、土方はゆっくりとその唇を吸い上げた。




















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