幕恋hours long

□大さまとわたし・4
2ページ/6ページ



「・・・い!!」


ん・・・誰か呼んでる・・・?



「・・・・おい!」


「きゃっ」

乱暴に肩を揺すぶられて、はっと目を開けると、目の前にいたのはひじかたさんだった。
一瞬どこにいるのか思い出せなくて、わたしは霞んだ目でじっと彼を見つめた。

あ、これとおんなじ事が少し前にもあったんだ。その時目の前にいたのは大久保さんだったけど。


「・・・・ったく、いい度胸じゃねえか。さすがあの大久保の色だけあるってことか」


ひじかたさんは少しだけど笑いを含んだ声でそう言うと、わたしの顎をつと捉えて顔を覗きこんだ・・・というか、今にも唇が触れ合いそうな近さに、わたしは驚いて強くひじかたさんの胸を押し返した。

だけど、押し返した胸板はびっくりするほど分厚くて硬くて、逆にわたしの身体は畳に押し倒されていた。


「や・・・っ!」

「大久保なんてやめておけ。俺のもんになっておけばこの先の身の安全は保証してやる。どうせあの男の事だ、本気で女に入れ込むってこたぁねえんだろ?」

「なに言って・・・」


組み敷かれたまま見上げると、きりりと眉の上がったひじかたさんの顔が間近で見つめている。

「単刀直入に言うぜ。最近大久保の周りを飛び回ってる蝿どもの目的を言え」

「・・・・!?」

ひじかたさんの手が、言葉とは全然違う優しい動きでわたしの髪をかきあげる。頬から耳の後ろへと、そっと指をくぐらす感触に思わず首を竦めた。


「・・・なあ、知ってるんだろう?土佐の脱藩浪士、今や朝敵となった長州。どれも薩摩と今更関わりを持つような輩じゃねえ。奴ら、何を企んでいる」


「・・・・っ」


それって、龍馬さんたちや、高杉さんたちのこと?
怖い位に繊細な指の動きに、つい上がりそうになる声を抑えながら、わたしは必死で考えを巡らせた。この人は・・・龍馬さんたちを捕まえようとしてるんだ・・・!


「わ、わたし知りま・・・」


そう言いかけた瞬間、肌を滑っていた掌がいきなりぐっとわたしの顎をつかんだ。

「嘘はいけねえな。なんだったら身体に訊いてもいいんだぜ?」

そう言って、ひじかたさんは口の端をゆがめて、笑った。














次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ