幕恋hours long
□大さまとわたし・2
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「キャーーーッ!!」
「馬鹿者、私だ」
悲鳴を上げる深雪を呆れたように見下ろしていたのは、大久保だった。
「こんな夜中に、でかい声を出すな。いくら広い藩邸でも迷惑だろう」
そう言いながら、ちらりと湯殿に視線を送り、半次郎の姿を確認する。かすかに舌打ちしたのは深雪の耳には入らなかった。
「ご、ごめんなさい」
恥ずかしそうに前を掻き合わせた胸元が危うい。大久保はますます不機嫌そうに眉間に皺を寄せた。
「・・・・見られたのか」
「はっ?」
「見られたのか、と聞いたのだ」
「え・・・っと、見ました?半次郎さ・・・」
「・・・・馬鹿者」
半次郎に問いかけた途端、大久保は深雪の腕を強く引いて、脱衣所を引きずり出した。
「え、ちょっと、大久保さん!?私まだ帯・・・っ!」
「いいから、来い」
いきなり深雪を抱き上げると、暗い廊下を大股に歩き出した。
襦袢もつけず直に着物を羽織っただけの身体では、肌の感触や体温が隠しようもなく伝わりそうで、思わず深雪は身を縮めた。
「何故、先に確認しないのだ。お前の頭は鶏並みか」
そう言われて深雪は、男所帯のような藩邸では着替えや風呂の際に十分注意するよう言われていたことを思い出した。
「だって、お風呂空いたって聞いたんですもん・・・・」
ぼそぼそと反論すると、ますます眉間の皺が深くなり、深雪は口を噤んだ。
「選りにも選って半次郎か。幸と言うべきか、不幸と言うべきか・・・神仏でもわかるまい」
口の端を上げて自嘲するように呟く大久保を深雪は不思議そうに見上げた。
時折揺するように抱きなおす腕が、身体にじかに伝わって恥ずかしいようなそのままでいて欲しいような不思議な感覚に見舞われる。
「これからは、もっと、気を付け、ます」
「あたりまえだ。お前がぎゃあぎゃあ騒ぐ度に駆けつけるわけにはいかんからな」
不意に耳元で囁かれ、思わず深雪はぞくりと背筋を震わせ、俯いた。