幕恋hours short
□いじわるで嫌味で・・・保護者?
1ページ/1ページ
『紫の上を育てる源氏気取りかい』
薩摩藩邸にお世話になって、早半月。
わたしはなぜか大久保さんにびしびしとしごかれていた。箸の上げ下ろしから、掃除の仕方の効率の悪さ、ものに対する無駄の多さ・・・指摘され、お小言を言われたことなら挙げればきりがない。
忙しい、と嘯くわりにいつもいて欲しくないところに必ずいて、チェックを入れてくる。つくづく、いじわるなんだなぁ・・・とため息ひとつ。
歯に衣着せぬ物言いにはだいぶ慣れたけど、やっぱり嫌味っぽい言葉は胸に刺さる。
そんなわたしを見て、ひとことだけ小松様がおっしゃったのがさっきの言葉。
源氏・・・って源氏物語・・・?紫の上って、聞いた事あるような、ないような。
とにかく、それを聞いた大久保さんはじろりと小松様を見やり、渋茶を啜るとにやりと笑って「どうとでも」と呟いた。
でも、最近気づいたのは、大久保さんがわたしに教えようとしているのは、一本筋の通った生き方のような・・・この時代で生きていくための指針のようなものじゃないかっていう事だ。
ある日、つまらないミスを指摘されてつい口答えしてしまったわたしに、大久保さんはいつになく突き放したような声音で、そろそろお前も独り立ちしろ、と言った。
「それって・・・わたしの面倒をみるのはもうご免だってことですか」
平静を装おうとしても、声が震える。足元が崩れるような不安を覚えて、大久保さんの顔がまともに見られない。どうしてこんなに自分が動揺するのか不思議なくらい、わたしはうろたえていた。
「・・・そうだな。いつまでもお前の保護者でいるのもそろそろ飽いてきた」
「・・・そんな・・・・」
「つまり・・・いいかげん私を男として見るのも悪くない。そう思わんか」
そっぽを向いて、なんだか拗ねたような大久保さんの言葉に一瞬言葉を失う。
でも、すぐにその意味を悟った。
「そんなの・・・はじめっからです!」
(でも、大久保さん色に染まるのも、悪くないって思ってる)
*end*