幕恋hours short
□潮騒
1ページ/1ページ
そこは、とてもあたたかくて、わたしの大好きなところ。
いとしい人の胸の中は、どこよりも安心できる、わたしだけに許された唯一無二の場所。
真綿の夜具の中、今夜もあなたという名の海をたゆたう。
満ち潮みたいに満たされて、うっとりと熱い素肌に唇をつけると、あなたはくすぐったそうに身体をそらす。
ふわりと急に逃げていくあなたの熱を追うように瞳を開くと、わたしを上から見下ろすあなたの、普段は趣味の良い羽織に覆われてそれとは知れないしっかりした胸板、およそ無駄のない肉体が目に映る。
いつも隠れている片目は、重力に逆らわずはらりと落ちた髪の間から優しい光を放っている。
「・・・大久保さん」
手を伸ばすと、そっと捉えられた。指先を口に含まれるとそれだけで身体の奥が反応してくる。
ひそかな音を立てて舐られる指先を黙って見つめたまま、わたしは自分の胎内がまた濡れてくるのを感じていた。
再び、大久保さんの熱がわたしの身体を覆うのと、首筋にちくりと痛みが走ったのはほぼ同時だった。
「ん、ぁ・・・」
肌の感触を楽しむように、身体中に掌を滑らせながら、首、肩、胸元に次々紅い印を刻んでいく大久保さんの頭をぎゅっと抱き締める。普段の彼からは想像もつかないほど優しいしぐさでわたしの肌に唇をあてていく姿は、とてもいとしくて。最後につんと尖った胸の頂を舌先で転がされると、お腹の奥からどうしようもないくらい蜜が溢れてくる。
「もっと・・・ください」
耳元にそっと囁くと、くくっと笑う声が聞こえた。
「さっき気を遣ったというのに、まだ欲しがるか。まったく欲深い・・・」
「大久保さんだから・・・いっぱい欲しいんです。ほかの人じゃ、いや」
悪びれずに言うわたしを、大久保さんは目を細めて見下ろす。
「そうまで言うなら、好きなだけやろう・・・後で泣いても遅いがな」
もう一度強く強く抱き締められて、逞しい肩越しに空(くう)を見つめ、こらえきれないほどの喜びを感じてわたしは静かに微笑んだ。
2010.11.17
*end*