幕恋hours short

□壬生の狗
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「えーと、お使いはこれで全部済んだかな・・・?」

深雪は自分で筆書きした拙いメモを袂から取り出し、往来で足を止めた。

寺田屋に厄介になっている以上、なにか仕事をさせてくれとお登勢に頼んで、毎日なにかしらの用事を言いつかっては買い物や雑用をするようになって数日。

ざっと目を通すと、買い物も洗い張りの受け取りも近所の商家への言伝てもすべて終わっていた。

「よし、帰ろう」

きちんと用を足せたことに満足して歩きだした深雪に、向こうから来た男が勢いよくぶつかってきた。

「いたっ」

「無礼者!!」

大した衝撃ではなかったが、男は大袈裟に顔をしかめて深雪を睨みつけた。

「ご、ごめんなさい・・・」

その剣幕に圧されて謝るが、男は尚も激高している。

「刀にぶつかったな!?女子の分際で武士の魂に触れるとは無礼千万、手打ちにしてくれる!」

いきなり抜刀した男に、周りの人間はざあっと波のように引いて行き、深雪はその男と対峙するような格好になってしまった。光を受けて気味悪く輝く白刃に、思わず後ずさる深雪を男は追い詰めるように間合いを縮めた。


(怖い・・・!龍馬さん!)

受けようにも自分の手には着物の包みがあるばかりだが、たとえ竹刀があったとしても真剣相手に歯が立つとも思えない。

じゃりっと砂を踏みしめる音に、つい目を瞑ってしゃがみこむ。





「・・・・おい。新撰組の管轄内で随分ふざけた真似してくれるじゃねえか」




どこかで聞いた事があるような、不機嫌そうな声。

「ひ・・・土方・・・!?」

「ほお。顔ぐれえは知ってるのか?てことはお前、攘夷派のもんか」

「ちっ、違う、俺は会津藩士だっ!」


なにやら風向きが変わったようで、恐る恐る顔を上げるとさっきの侍が足早に立ち去っていくところだった。そして傍らには、土方が立っている。


「やっぱりお前か。つくづくついてない奴だな」

見下ろす土方の顔は、少々うんざりしたように眉間に皺が寄る。
「あ・・・ありがとうございます」

この状況から察するに、助けてくれたということだろうと、慌てて礼を言うとますます皺が深くなる。

「ちっ・・・これでも忙しいってのにとんだ拾いもんしちまったぜ」

「えっ?」

と、いきなり腕を取られてぐいっと引き上げられ、深雪は勢い余って土方の胸に鼻を押し付けるように飛び込んでしまった。

「きゃ」

「・・・・おいおい」

呆れたように頭上から土方の声が降ってきて、思わず顔が赤らむ。まるで抱き合うような姿に一気に恥ずかしさが込み上げて、急いで身体を離した。

「確か・・・薩摩藩邸だったな。途中までしか行けねえが、送ってやる」

その表情とは裏腹に、なぜかその声はやさしく響いて、深雪は土方を見上げた。




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