幕恋hours short

□夢見
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合宿で訪れた京都。

わたしはカナちゃんとお寺の境内で集合時間までおしゃべりをしていた。

はしゃいでわたしの肩を叩いたカナちゃんが、うっかりお気に入りのキーホルダーを吹っ飛ばしてしまって、わたしは彼女に先に集合場所へ行ってもらい、キーホルダーを捜す事にした。

「じゃあ、行ってるね!」


そのとき、どくんとわたしの心臓が跳ねた。
走っていくカナちゃんの後姿に、言いようのない不安が黒い滲みのように胸を覆っていく。


「あ・・・待って、カナちゃん!!」


でもカナちゃんは、そんなわたしの声に気付かないようにどんどん走って行ってしまう。


わたしも行かなきゃ。
だって、そうしないとわたしは・・・。


「待って、待って、置いて行かないで!」


足がもつれてうまく走れない。タールの中を走っているように上がらない足に、もどかしくて泣きそうになる。

「カナちゃん・・・!!」



呼びながら伸ばした指が、不意に温かさに包まれる。










「深雪・・・・・?」








「・・・・・龍馬、さん・・・・・」






涙で濡れた瞳を開けると、心配そうに覗きこむ龍馬さんの顔。


「うなされちょったが、大丈夫か」


「・・・・はい」

わたしの指を、龍馬さんが優しく包んでくれている。その温かさに少し安心する。

「もといた場所を夢に見たんかのう」


「最後に一緒にいた人が、夢に出てきたんです」

「ほうか・・・」


わたしを見下ろす龍馬さんの表情が、困ったように眉を寄せる。いけない、そんな顔をさせるつもりじゃなかったのに。


「彼女は行ってしまったけど、今は傍に龍馬さんがいてくれるから・・・寂しくないです」


「ならば、ええんじゃが」

よかった、と言いながら龍馬さんの顔はやっぱり心配そうで。

わたしは急いで目じりに流れた涙を空いている指で拭って、笑った。
すると龍馬さんは、絡めた指をその大きな掌でぐっと握ってくれる。


「・・・後悔、しちょらんか」



少しだけ、苦しそうな色を浮かべて龍馬さんはわたしに尋ねる。わたしが帰らないと決めて、お互いの気持ちを確かめてからも、時折同じことを問われる。


「ここに残ると決めたのはわたしだよ?後悔なんてする筈ない。でも・・・・・」

でも?と怪訝そうな龍馬さんの顔を、じっと見上げる。

「・・・・でも、ときどきは・・・夢に見ちゃうことは、許して・・・・」




言い終わるか終わらないかのうちに、わたしは龍馬さんの胸に抱き締められていた。



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