幕恋hours short
□乙夜騒動
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ある夏の宵。
「いくらなんでも、あれはまずいっス」
「しかしな・・・僕達にはどうにも出来ないだろう」
「布団でも被せておきますか?先生」
「この暑いのにか?深雪さんが汗疹にでもなったらどうするんだ」
「は・・はぁ・・・」
三人が廊下から覗いているのはこの宿に厄介になっている不思議な少女、深雪の部屋。
先ほどから額をつき合わせて相談しているが一向に埒が明かない。
「お?どうしたがじゃ。こんな所で雁首揃えて」
そこへ通りがかった龍馬が足を止めた。
「しーっ」
「・・・深雪の部屋の前で男三人とは穏やかじゃないのう。なんぞあったんか?」
忍ぶように近づいた龍馬は、中岡に促されて障子の隙間を覗きこむと、一瞬で動きを止めた。
「・・・・なんちゅう事じゃ」
部屋の中では、深雪が眠っていた。
それはいい。
問題はその格好だった。
「あれ・・・なんじゃ」
簡単に言えば、深雪は体育着で寝ているだけだったが、寺田屋の面々にとってそれは初めて見る奇妙な衣服だった。
ここ数日のあまりの暑さに、浴衣で寝ることに耐えかねた深雪が、スクバに入れてあった体育着を思い出し、その夜上機嫌でそれを身に着け眠りについたことを誰も知らなかった。
「袴にしては短すぎるし、上着には袖がないし、なんなんスかね、あれって」
「あんなに脚をむき出しにして女子の自覚も嗜みもない格好、龍馬だって見ていられないだろう?」
「いやー、どっちかちゅうとずっと見ていたい気もするが、さすがにまずいじゃろ」
ははは、と笑う龍馬を以蔵が睨んだ。
「おい、龍馬。先生が見るに堪えないと仰ってるんだ、なんとかしろ」
「ワシがか?」
そこに、部屋の中からうーん、と寝惚けた声が上がり、四人は一斉に隙間を覗いた。
「「「「う・・・・!」」」」
深雪は寝苦しそうにばたりと寝返りを打っていたが、薄い掛け布団を股に挟み、まるで誰かにしがみつくように片脚をかけて悩ましい姿になっている。
体育着のシャツは捲れ上がり、白い腹にちらりと臍が覗き、四人はそのまま固まってしまった。
「・・・・・すんません、俺ちょっと厠に・・・・」
苦しそうな声で中岡は呟き、いきなり廊下を駆け出して行ってしまった。
「わっかいのー。しかしまあこれはたまらんぜよ」
龍馬は可笑しそうにその後姿を見送っていたが、相変わらず固まったままの武市を心配そうに覗きこんだ。
「おまん、なにしちゅう」
「・・・っ、いや、大丈夫だ」
「先生、これ以上はお眼汚しになります。ここは俺に任せて部屋へお戻りください」
以蔵が武市を気遣うように言うと、武市は弾かれたように以蔵を見た。
「以蔵、深雪さんをどうするつもりだ」
「は?」
「以蔵はおまんを心配してるだけじゃき、見るに堪えないのなら部屋に戻ればええじゃろ」
論客で鳴らした武市が珍しくぐっと詰まって
言葉を失った。