幕恋hours short

□おまえがすき
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「深雪!!早く来い!」

「ま・・待ってよ、晋作さん」

せっかちな晋作さんは、いつも急いでいる。

藩邸の中も、駆け足で走り回るから桂さんもしょっちゅう注意するけど、まったく効果なしだ。


「いてぇーーー!!」

「ほら、また小指ぶつけたんでしょう」


敷居にひっかけたらしくて、盛大にひっくり返った晋作さんは大袈裟に痛がっている。


「深雪!見てくれ!骨が折れたかもしれん!」

まったくもう。


しゃがみこんで晋作さんの足を覗きこむと、少し赤く腫れてるけど骨折はしてないみたい。

「大丈夫。折れてません!」

「ほんとかっ」

途端に晋作さんはにこっと笑ってわたしを見上げた。





心臓が、どきりと鳴る。


どうして、このひとは突然こうやって、わたしの心を騒がすんだろう。



多分赤くなっているわたしの顔を隠すように、下を向いて晋作さんの腫れた小指をさすってあげる。


「深雪・・・」


「ん?」


「やっぱりお前、オレの事が好きなんだな!」

「ちっ・・・違います!!」


「即答かよ!」


いつものやりとりだけど、この頃は前みたいにきっぱり言えない。

晋作さんのことは嫌いじゃないとは思うけど、素直に好きって言えるほど自信はない。

晋作さんは、どうしてそんなにはっきり言えるんだろう・・・。

「オレはお前の事好きだぞ?」

「それが、わからないんですって・・・」

「いーや、お前だってわかってるはずだ」



きっぱりと断言されて、ずっと心の中に澱むように沈んでいた思いが首をもたげる。


人を愛するって、どこから始まるんだろう。
どのくらいの“好き”が“愛してる”になるの?



「わたしは晋作さんみたいに賢くないから、わかりません」

ちょっと嫌味をこめてそう言うと、晋作さんはぴたりと黙って私を見た。

「深雪ほどの女がつまらんことを言うな。本気で言ってるのか?」

「だ・・・だって、晋作さんに好きになって貰うような理由がないんですから」


咄嗟にそう言ってから、まるで初めて気付いたようにその心の奥深くに沈んでいた気持ちに気付いた。






そう。


私は・・・彼に愛される自信がないんだ。




なんでもはっきり言う晋作さん。滅茶苦茶ばかりやってるようで、そのくせ先の先まで読んでる行動。藩のみんなにすごく慕われている晋作さん。

私を・・・一生懸命想ってくれてる晋作さん。


それなのに私は、それに応える術を知らない・・・。


ほんとの無鉄砲は私だし、迷惑だってたくさんかけた。

それなのに、いつもいつも晋作さんは私を許して助けてくれる。


そう思ったら、色々な思いが一気に溢れ出てきて、自分でもまったく予想外に涙がぽたりと頬を伝って落ちた。














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