幕恋hours short
□my sweet
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同盟が大詰めを迎えて、ここ数日龍馬は薩摩藩と長州藩を忙しく行き来することが多く、ほとんど寺田屋に落ち着く間もない日を送っていた。
もともとお互いを蛇蝎の如く嫌い合っていた藩同士、龍馬はもちろん大久保や桂も藩論をまとめるのに、ここまで命を削るような思いで説得に当たって来た。
それが実を結ぼうとしている今、ふっと龍馬は無性に深雪の顔が見たいと思った。
(疲れとるんじゃろうか)
幸い明日は予定がない。もうすっかり夜も更け、薩摩藩邸では泊まっていくよう勧められていたが、今夜このまま寺田屋に帰ろうか、と不意に思い立った。
「提灯をお持ちになりますか」
「いや、月も出ちょるし、かえって灯りは居場所がわかりやすいきに、無用じゃ」
そう言って、月明かりの中龍馬は薩摩藩邸を後にした。
(深雪は、もう寝ちょるじゃろうな)
ぼんやり、深雪の寝顔を思い浮かべる。早起き勝負で勝った時だけ見ることができる深雪の寝顔は、龍馬だけのひそかな楽しみだった。
まるい頬、艶めいた桜色の唇、翳を落とす睫毛。どれも胸を騒がすのに十分すぎるほど魅惑的だった。
(逢いたいのう)
愛しさが募って、つい足早になる。
もう何日、ろくに言葉も交わしていないのか。
それでも深雪は、会えばいつでも笑ってくれた。
口を開けば龍馬の身を案じる言葉ばかりだった。
(まっこと、できた女子じゃ。さすがワシが惚れただけある!)
自画自賛か手前味噌か、とにかく彼女のことを想うだけで嬉しさがこみ上げてくる。
命など今更惜しくないと東奔西走して来たが、深雪を守る為なら、いま少し永らえたいと思う。