幕恋hours short
□いつかきっと
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薄暗い明かりの中、深雪はなるべく音を立てないよう気遣いながらかけ湯をして湯船につかった。
この寺田に世話になって以来、いつも風呂は最後に入る事にしている。
龍馬や慎太郎に勧められても、彼らが済ませるまでは決して先に入る事はない。
特に理由はないが、なんとなくそうしたいと思い、そうしてきた。
「ふう・・・いい気持ち」
今日はみな用事で出払っていたため、手持無沙汰な深雪は一日掃除や簡単な洗濯などをして過ごしていた。
慣れない昔風の家事に、少し節々が痛む。
そんな身体を温かい湯がゆっくりと癒してくれる。一日の終わりを締めくくる大切な時間だった。
「・・・・深雪?」
「あ、龍馬さん?」
湯から上がり、自室へ戻ろうとした深雪の目に、誰もいないと思っていた縁側に座る龍馬が映った。
傍らに徳利と杯。
ひとり月見酒でもしていたのだろうか。
「もう寝ちゃったかと思いました」
手招きされて隣に腰掛け、空いた杯に徳利を差し出すと、龍馬はにこりと笑って杯を挙げた。
「深雪に酌をして貰えるとは嬉しいのう・・・ところで、今頃風呂に入っておったのか?」
「あ、はい」
口ごもる深雪に、龍馬はふと眉を曇らせた。