幕恋hours short

□宵待詩
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今宵も、深雪が泣いちょる。




未来に帰らないと決めても、まだ肉親が恋しい歳。寂しさが募りしばしば不安定になる深雪は、日が暮れると褥の中で、身も世も無く泣きじゃくる。


昼間は笑顔の絶えん顔が嘘のようにゆがみ、涙はとめどなく流れ落ちる。


「・・・帰れば良かった、怖い時代・・こんな簡単に人が死ぬなんて、もう嫌・・・」


譫言のように切れ切れに呟く声に、ワシはたまりかねて腕を引き、強く抱きしめた。

新撰組の粛清や、市中で晒される梟首。謂れのない罪で捕まり、抵抗の挙げ句斬り捨てられた浪士。それは、深雪にとってありえん現実じゃった。

世が荒めば、人の心も荒む。深雪が見たものは、容赦なくこの優しい心を痛め付け、均衡を狂わせていったようじゃ。

怨嗟の言葉がこれ以上紡げぬように、唇を塞ぐ。苦しげに喘ぐ声を飲み込み、押し倒し着物を解く。

「や・・・もぅ、やだ、龍馬さん、やめ・・・」

はかない拒絶を押し切り、身につけた総てを取り去る。
剥き出しにされたなめらかな肌から、途端に立ち上る芳しい薫り。その薫りにくらりと目眩を覚えた。
深雪の存在すべてが愛しく、まるで意味を為さない抵抗を難無く押さえ込み胸の頂きに口を寄せる。

「ひ・・・ぁあっ・・・」


わざと歯を立て、深雪の意識をそらす。そうやって毎夜、ワシは深雪を抱き続ける。
恐怖と悲しみに押し潰されそうな心を、快楽で麻痺させることは欺瞞といえば欺瞞じゃが、話してわからせる事はできんかった。いや、理解を拒否したのは、深雪じゃ。


「おんしが、悪いんじゃ・・・」


「あっ・・・あ、あん・・・・やぁだ・・」


ワシの手の中で、白く歪む乳房を舐め上げると、深雪はいやいやをするように激しく首を振った。それは、流されまいとする必死の抵抗のようじゃった。










 
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