幕恋男子部
□霍乱
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目をあけると、見慣れた天井が見えた。
じっと、天井板の節を眺めてからゆっくりと周りを見回す。
自室なのはわかっていたが、なぜ、いつ床に入ったのかまったく覚えていない。
そして、ひどく頭が痛かった。
「・・・・痛っ・・・・・」
頭をおさえて起き上がろうとしたそのとき、襖が開いた。
「お、大久保さぁ!」
半次郎は慌てて傍に来ると、私の肩を押しとどめて再び布団に寝かせた。
「半次郎、私はどうしたんだ。なぜ・・・」
「覚えておいもはんか。大久保さぁは、昨晩吉田の藩邸からお帰りになってすぐ、お倒れになりもした」
半次郎は申し訳なさそうに言葉を継いだ。
「・・・お加減が悪い事に気付かんとは、おいはお側付き失格でごわす」
うな垂れる半次郎を見ながら、しばらく動きの鈍い頭をめぐらす。そういえば昨夜は妙に頭が重く、どうにも気分が優れなかった。
「お前のせいではない・・・しかし、頭が痛いな」
そう呟くと、半次郎ははっとして膝に抱えていた桶を畳においた。そして浸してあった手拭いを絞ると、私の額にかかる髪を人差し指で不器用に除けてからそっとあてた。
「・・・・気持ち、いい」
ふう、と吐息を洩らすと半次郎は一瞬ほっとした顔を見せたが、すぐに表情を引き締めた。
「だいぶ熱が上がっておりもした。今日は一日ゆっくり休んでくいやんせ」
「そういう訳にはいかん。やることなら山ほど・・・」
そう言いかけると、半次郎は真剣な顔で居ずまいを正した。
「お頼み申し上げます。どうか、お身体を休めてください」
無心というか赤心というのか。
私は、だからこの男が苦手なのだ。