幕恋男子部

□霍乱
1ページ/3ページ



目をあけると、見慣れた天井が見えた。




じっと、天井板の節を眺めてからゆっくりと周りを見回す。
自室なのはわかっていたが、なぜ、いつ床に入ったのかまったく覚えていない。



そして、ひどく頭が痛かった。




「・・・・痛っ・・・・・」


頭をおさえて起き上がろうとしたそのとき、襖が開いた。


「お、大久保さぁ!」


半次郎は慌てて傍に来ると、私の肩を押しとどめて再び布団に寝かせた。


「半次郎、私はどうしたんだ。なぜ・・・」

「覚えておいもはんか。大久保さぁは、昨晩吉田の藩邸からお帰りになってすぐ、お倒れになりもした」

半次郎は申し訳なさそうに言葉を継いだ。

「・・・お加減が悪い事に気付かんとは、おいはお側付き失格でごわす」

うな垂れる半次郎を見ながら、しばらく動きの鈍い頭をめぐらす。そういえば昨夜は妙に頭が重く、どうにも気分が優れなかった。


「お前のせいではない・・・しかし、頭が痛いな」

そう呟くと、半次郎ははっとして膝に抱えていた桶を畳においた。そして浸してあった手拭いを絞ると、私の額にかかる髪を人差し指で不器用に除けてからそっとあてた。

「・・・・気持ち、いい」


ふう、と吐息を洩らすと半次郎は一瞬ほっとした顔を見せたが、すぐに表情を引き締めた。


「だいぶ熱が上がっておりもした。今日は一日ゆっくり休んでくいやんせ」

「そういう訳にはいかん。やることなら山ほど・・・」


そう言いかけると、半次郎は真剣な顔で居ずまいを正した。

「お頼み申し上げます。どうか、お身体を休めてください」



無心というか赤心というのか。


私は、だからこの男が苦手なのだ。












次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ