幕恋男子部

□寝待月
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「おい、小五郎」


いつものようにオレは、あいつの部屋に躊躇なく這入って行った。


「……っと」



驚いた。

小五郎の奴、どうやら寝ているらしい。こちらに背を向けているから顔は見えないが、ゆるやかに上下する肩から肩甲骨にかけてのなだらかな稜線がそれを物語っている。


普段は隙など決して見せない男だが、こんなこともあるものかと少しだけ嬉しくなる。

そっと近づき、顔を覗き込もうと身を乗り出す。墨でも持ってきて顔に落書きでもしてやろうかと、ほくそえんだ瞬間。


「…何か用かい、晋作?」




ちっ。




見下ろせば俺の手首はしっかりと小五郎の手に握られていた。背中に目があるかのように、気配だけで的確にオレを捉えるのはさすがと言うべきか。


「つまんねーな。いつから気づいた?」


「さあね」


ふふ、と笑って此方を向く。しかし本当に寝てはいたようで、胸元が着崩れている。
こんな小五郎は珍しい。俺は思わず口を噤んで奴をじっと見た。少し寝乱れた髪をかきあげた時、大きくはだけた着物から覗く胸と腹にも目を落とすと、小五郎は怪訝そうに首を傾げる。



「伊達に剣豪の名は背負っていないか。お前の腹、すげえな」


たおやかにも見える怜悧な容貌にはまったくもって不釣り合いな、引き締まった腹だ。江戸の道場では塾頭まで務めた無双の強さを思えば、それを作り上げた鍛錬の厳しさは想像に難くない。

するとああ、と小五郎はふと腹を見遣って薄く笑った。そして寛げた着物の合わせをさらに引き下ろした。



「触って…みるかい?」





一瞬、何を言われたのかわからなかった。






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