幕恋男子部

□はつゆめ
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「大久保さぁ」

藩邸の長い廊下を歩いていたら、後ろから半次郎が声を掛けてきた。

振り向くと、新年の晴れ着なのか、いつもより華やかないでたちの半次郎の姿が目に飛び込む。髪もすっきりと結い直して油の香りが鼻をくすぐる。


「ご挨拶をしようと、捜しておいもした」

にこりと笑う表情に、思わず和む。
では、と自室に招き入れると糊のきいた袴を鳴らしてきちんと座ると手をついて新年の口上を述べ始めた。


「……ふ…くくっ、もういいだろう?」


途中から可笑しくて仕方なくなり、吹き出すと半次郎もこらえ切れなくなったようで、途端に真面目な顔が笑み崩れた。

「そうですな、おいらしくなか。やはりいつも通りでよかですか」


そう言うと、半次郎は突然私を抱き寄せた。

「ちょっと待て、いつも通りとは…」

戸惑う私を意に介さず、あっという間に押し倒され壊れ物を扱うようにそっと唇を塞がれた。そして、その隙間から信じられない言葉が注ぎ込まれた。


「今年のおいの目標は、大久保さぁをもっともっと気持ちよくさせる事でごわす」

「…なっ…何を…半次郎!?」


「大久保さぁはいつも、いく時ですら声を抑えておいもす。そいは…おいの力不足でごわしょう。ですから今年はもっと乱れて頂きもんそ。今後は離れの部屋を使えばいくら声が漏れても気になりもはん」


にこにこと無邪気に笑いながら、恐ろしい事を口走る半次郎を、唖然としながらみつめると何を勘違いしたのかまた、きつく抱きしめられた。

「そげん、可愛らしいお顔で見んでくやい…止められなくなりもそ」


「いや、そうじゃなくて、どうしたんだお前…?」

「大久保さぁの髪も、目もそのお手も…なめらかな肌も綺麗な尻も…その奥も、全ておいのものでごわしょう。ならば大久保さぁを満足させるのはおいの務め!」

「ちょっと待て!新年からどうなんだそれ!」


「新年ですから決意を新たにしようちゅうこつでごわんど」

「新たにするな!!!!!」

声を荒げて睨みつけても、半次郎は一向に怯む素振りもない。自慢ではないが、私の一喝で震えあがる輩ならいくらでもいるというのにまったく鈍感な男だ。


「大久保さぁ、そんおつもりで晦日に新調した下帯を下さったのではなかですか」

「は?下帯だと?」

そんなもの贈った記憶はない。第一なぜ、私が半次郎の下着の心配までせねばならんのか。

「これを付けて、今宵忍んで来いと仰いもした」




「そんな事言うか!!」















あまりの大声に、自分で驚いて飛び起きた。





一月二日の朝。
さわやかな朝日の差し込む自室で、私は我に返ったようにきょろきょろとあたりを見回した。


「大久保さぁ!?いかがされもした!」


障子越しに半次郎の声。




…………初夢、だと?これが?




あまりの内容に、半次郎の顔をまともに見られる気がせず、私は頭を抱えて布団に突っ伏し寝たふりを決め込んだ。




続きに、【自己満足の世界】しんごさまよりターン!大久保&小娘。




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