幕恋男子部
□爛華
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半次郎が人斬りと呼ばれていることは、知っていた。
それが何故なのかも知っている。
それを私の罪というなら、私は地獄に堕ちることなど露ほども厭わないだろう。
爛華
「・・・・ただ今、戻りもした」
土砂降りの雨に全身を濡らして、半次郎は藩邸の玄関にずるりと身をすべり込ませた。ちょうど居合わせた私を見ると、驚いたように一瞬動きを止めた。
総髪の鬢が乱れ顔に張り付いている。袴から絶えず流れ落ちる水滴に、私は眉を顰めた。
「風邪をひく。風呂の用意を」
傍にいた下男に声をかけると、へい、と慣れたように返事をして奥へ行った。
血の匂いがかすかに鼻を衝く。染みて黒く濡れた袴に飛沫が飛んだのだろうか。
血色がいいのは、人を殺めた後だからか。
私のためにこの男は人を屠る。
私だけのために、この男は人の道を外れ、私心とはかかわりのない粛清を繰り返す。
「お見苦しい姿をお目にかけもした」
三和土(たたき)に突っ立った半次郎は、じっと私を見ると、落ち着きはらって言った。
目が据わっているのは、まだ心が戻りきっていないからだろう。
譬え憐憫の情を見せても、この男は毛ほども感謝なぞしないだろう。
この男もまた、自分の信念に従って、私のために動いているのだから。