幕恋男子部
□ささくれ
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半次郎が、いつになく落ち着かない。
それもそのはず、今日は西郷が薩摩より入京する予定なのだ。
半次郎にとって西郷は恩人とも師ともいえる特別な存在だ。
「半次郎」
藩邸の玄関で右往左往している半次郎を、片手をあげて呼びつける。
「何でごわしょうか」
「西郷は、もうそろそろ到着するのか」
「はあ・・・予定ではまもなく」
生真面目に答える半次郎の顔を、じろりと見やって、ここ二、三日考えていた事を告げた。
「あいつがここに滞在している間、私の護衛は暇をやる。西郷についてやれ」
「はっ?」
半次郎は鳩が豆鉄砲を食らったような顔で私を見た。京での半次郎の仕事は、情報収集と私の護衛が主だった。しかしそれでは、西郷と久しぶりに会えてもろくに話をすることもできないだろう。
「その間、新兵衛を護衛につける。だから心配はいらない」
その名を聞いて、半次郎の顔が曇った。田中新兵衛は半次郎や土佐の岡田と並び称される人斬りだが、同郷の半次郎から見ても、奸物とあらば即斬る、という単純な思考はあまり好もしいものではないようだった。
「西郷は数日で江戸に発つ。時間はあまりない」
「おいは・・・」
「もうこれ以上は時間の無駄だ、今日から西郷とともに行動しろ。いいな」
ぴしりと告げると、半次郎は考え込むような顔でうなずいた。