幕恋hours long

□おかしなふたり 8【こころ】
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廊下を急ぎ足で歩く深雪の背後から、誰かが自分を呼ぶ声が聞こえた。しかし深雪は振り切るように耳を塞いで、裏庭の井戸端まで逃げるようにたどり着いた。




(やっぱり・・・・ここには帰らなければよかったんだ・・・!戻った来たって迷惑なだけ・・・)



龍馬の言葉と、以蔵の言葉が耳に蘇る。井戸に手を付いて、じっと闇に光る水面を見つめていると、肩に手をかける者がいた。


「以蔵・・・」


「・・・・潮時だな」

「えっ」

「お前は、今まで生きてきた場所に帰るべきだ。お前のいた場所はきっと、こんなに荒れた世ではないんだろう?」

「・・・・・」


「俺たちの事は、幻だと思え。いつかは消える命。女とは生きる道が違うんだ」


以蔵は、どこか遠くを見るような目をして呟くように言った。深雪はそんな以蔵を戸惑った瞳で見つめる。
以蔵はその表情を見て、少しだけ苦笑しながらさらに続けた。


「・・・お前の事を、龍馬が支えにするのはいい」


「支え?」


「ああ。だが、お前は龍馬に、それを求めるのはやめておけ」

「待って、以蔵!どういうことなの?だって、龍馬さんの心の支えになんて、わたしなってない!」

「いや。お前にはわからんかもしれないが、今のお前の存在は、龍馬にとってどれほど大きいか・・・あいつもそれに気づいているからこそ、お前を帰そうとしているんだろう」


(どうして?だったら・・・龍馬さんに必要とされているのなら、わたしは・・・)




「だから・・・さっさと家に帰るんだな」


「わたし、ここに居たら・・・邪魔なのかな・・・」


深雪が呆然と呟くと、以蔵は緩く首を振った。


「おまえはもう既に、坂本龍馬と関わりのある人間になってしまった。斬られるには、十分すぎる理由だ」




斬られる。


その聞き慣れない言葉を反芻するように深雪は頭の中で何度もその言葉を繰り返した。




「・・・・だから、龍馬はあれほど必死でお前を帰そうとするんだ。たとえ本意ではないとしてもな。それぐらい、察してやれ」


以蔵は、苦々しい表情でそれだけ言うと、踵を返して立ち去っていった。





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このお話には、【幕末志士の恋愛事情】本編
坂本龍馬√第拾話の以蔵の台詞を一部引用しております。ご承知置きくださいますようお願いいたします。





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