幕恋hours long

□大さまとわたし・6
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「ま、待って!!」

わたしは慌てて襖に手を掛けた。だけどぴったりと閉まったそれはいくら力を込めても全然開かない。

「無駄だ、心張棒がかかってる。あまり騒ぐな」


向こうからまた、小さい声が聞こえた。でもこの人がさっき言った言葉が気になって、わたしは気もそぞろで襖をがたがたと揺さぶった。


すると、がたりと音がして襖が開き、憮然とした顔でさっきの男の子が顔を出した。

「あのっ…ん!」

怖い顔をしてその男の子はわたしの口をふさぎ、耳元に囁いた。

(お静かに。俺は薩摩の者。大久保様の命でここに潜入しています)

きつい眼差しでその人は言う。わたしは口をふさがれたままこくんと頷いた。

(俺も万一身分がばれれば命はない。それと、あなたの救出は俺の任務じゃないから、当てにしないでください)


え?と驚いて顔を見返すと、彼は少しだけ口角を上げた。


(大久保さまはあなたを見捨てない。これだけは確かですから気をしっかり持って)


そこまで言うと、有無を言わさずまた部屋へ押し戻された。間髪を入れずに廊下を歩いてくる足音が聞こえ、見張りを交代する気配。


立ち尽くしながら、彼の言葉を頭の中で繰り返す。


大久保様は、あなたを見捨てない。


ただの、根拠のない一言なのに、わたしの心が落ち着いていくのがわかる。
今まで藩邸で暮らし、重ねてきた大久保さんとの日々がその言葉を信じていいと告げているようだった。

(…嬉しい)


本当は、大久保さんを信じたいと思っていた。だけど自分に自信がなくて、大久保さんとわたしの関係を試されているような気がしてすごく怖かった。

ひじかたさんがわたしに言い寄ってきたのは情報が欲しいためだとわかっていたけど、彼の大久保さんに対する酷い評価は見えない棘のようにわたしを傷つけた。そんな人じゃない、と否定しているのになぜか怯えていた。



先行きは決して楽観はできないけど、それでも心の中にぽっと灯りがともったように胸の奥が暖かくなった。






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