幕恋hours long
□大さまとわたし・4
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どうしよう。
わたしは、半ば強引にひじかたさんに連れられて『とんしょ』と言う場所に来ていた。
大久保さんに連絡を取ってくれと頼んでも、ひじかたさんはまったく聞いてはくれず、腕を掴んで引き摺るようにここまで引っ張られて来た。
ここは大きなお寺で、沢山の男の人たちがいた。
珍しそうにわたしを見る人、なぜか気の毒そうな視線も感じた。なんとなく合宿所みたいだけど、違っているのはみんなが纏っている殺伐とした空気だろうか。
「ここで待っていろ。逃げようなんて思わない方がいいぜ」
四畳半ほどの狭い部屋に放り込まれて、ひじかたさんにそう言われた。まって、と声を掛けるのと、襖が閉ったのはほぼ同時だった。
「どうしよう・・・・大久保さんや、半次郎さんきっと・・・」
立ちつくした襖の前でそこまで考えた時、ふと大久保さんの不機嫌そうな顔が浮かんだ。あの時、呼びかけても大久保さんは振り返りもしなかった。半次郎さんはともかく、もしかしたら厄介払いができたぐらいに思われていたら。
「・・・・心配なんて、してないか・・・・」
大久保さん、すごく怒っているみたいだった。どうして怒らせてしまったのかわからないけど、わたしの顔なんて見るのも嫌なくらいだったのかな。
そう思うと、なんとなく力が抜けてその場にぺたりと座りこんでしまった。
悲しいのか、寂しいのか自分でもよくわからないけど、もともと迷子も同然の自分の立場が尚更ひとりぼっちになったような気がして、これからどうなるのか考えるのも厭になってしまった。
「・・・大久保さんの、ばーか」
膝を立てて、顎を埋めてぼそっと呟く。だって、呉服屋さんに寄ろうって言ってくれた時、あんなふうに笑うなんてずるいよ。
期待しちゃうじゃない。
辛いときに辛いって泣くのは好きじゃない。辛いときこそ、踏ん張らなくちゃいけないとこだもん。それができたら、やっと泣くことができるんだって、そう思ってる。
ごしごしと目を擦って、負けるもんかって心の中で言う。それが一番心細いときのわたしの癖だったとしても、自分を信じなきゃ何もできない。