幕恋hours long

□大さまとわたし・3
1ページ/6ページ



「大久保さん!早く行きましょうよ」


わたしはすっかり履きなれた草履に、新品の足袋を鳴らしながら足を入れ大久保さんに声をかけた。


「そう慌てるな。言っておくが、お前の用はあくまでついでだからな」

「わかってます!会津さまのお屋敷で大事な話が済んだら・・・でしょう?」


それでも、うきうきする気持ちが抑えられない。だって、大久保さんがわたしに着物を買ってくれるなんて言うんだもん。

貰うものと言ったら、いつもお小言ばかりだったから、大久保さんが着物を見繕ってやると言ったとき、はじめ何のことかわからずにぽかんとしてしまった。

『いつもいつも地味なものばかり着ていると、私の趣味が疑われそうだ。そろそろ単衣や薄物も必要な時期でもあるから幾つか買ってやる』


なんて、相変わらず嫌味も忘れない大久保さんだけど。




とっても、嬉しかった。






「深雪さぁ、すまんがここで待っておって下され」

会津藩邸には、半次郎さんと三人で行った。護衛の半次郎さんは、話し合いの部屋のすぐ隣で待つけど、なんの役にも立たないわたしはもっと離れた部屋をあてがわれた。


初めての場所でちょっと心細いけど、この後に控えてる『私』の用事を考えるとそんなこと取るに足らないことのように思える。


機嫌よく二人を見送り、がらんとした部屋にぺたりと座るとほんとにやることもなくて、思わず欠伸が出る。
どうせおまけのわたしなんて、誰も見に来るわけなんてないと思っていたせいだろうか。


知らず知らず、わたしはうとうとと、眠り込んでしまった。





次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ