幕恋hours short
□めりくり恋愛事情
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師走も近づいたある日の事。
「寒いのう、なんかこう、あったかくなるような事はないかの」
風邪気味の龍馬さんが火鉢を抱えてぼやく。最近夜遅くまで会合があったり、急に冷え込んできたせいで冬が苦手な龍馬さんはちょっぴり元気が無い。
「あったかくなるようなこと・・・?」
首を傾げて龍馬さんを見ると、
「そうじゃ、楽しくて心が浮き立つような事や、何か美味いものをみんなで食うのもええの」
「美味しいものかぁ」
でも、平成生まれのわたしの頭に浮かぶものと言ったら、ここでは手に入らないものばかり。昨日も昨日で、冬至だというので南瓜の煮物が食事に出たり、ゆず湯に浸かったり、和風の行事はいまひとつ華やかさに欠ける。
今の時期だったら・・・街に出ればイルミネーションに彩られた通りや、デコレートされたツリーとか、龍馬さんの喜びそうなものがいっぱいあるのに。
「クリスマス・・・・」
「お?」
「あ、いや、わたしのいた処では、今ぐらいの時期にパーティーとかするんです」
「ぱーてー?」
龍馬さんはきょとんとした顔で繰り返す。そうだ、これじゃ通じないんだっけ。
「ええと、仲のいい人たちで集まって、みんなでチキンとかの美味しいものを食べたり、贈り物をしあったりする、宴会みたいなものです」
龍馬さんの瞳が見る見る輝きだす。わくわく、と言う表現がぴったりな、少年みたいな目。
「ほうか。そりゃあ楽しそうじゃの」
「楽しいですよ。わたしも毎年楽しみにしてました」
懐かしくて、少しだけ寂しくなる。もうあんな夜を過ごすことは無いのかもしれないと思う気持ちと、一緒に祝った家族や友達が脳裏に浮かぶ。
「・・・・深雪、そのぱーてーとやら、やらんか?」
「えっ?」
思わず見上げたわたしの前に、にしし、と悪戯小僧のように笑う龍馬さんの笑顔があった。