幕恋hours short

□行水始末記
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「うわあっ!!」



驚く三人に構わず、龍馬さんは次々水を汲んではそこかしこに水を撒く。
わたしも髪も着物も水がかかってびしょびしょ。でも、なんだか楽しくなってきた。


「もう!龍馬さんたら!」

「龍馬!お前が浸かっていた水なぞ撒くんじゃない、汚いじゃないか!」

潔癖症な武市さんが青筋を立てて怒っているのもなんだか可笑しくってしょうがない。
以蔵は一瞬腰に手を当てたけど、丸腰なのに気づくと珍しく苦笑して、おもむろに井戸端で釣瓶を引き上げて水を汲み上げ、その桶ごと龍馬さんに向かって水を投げた。


「うおっ!!以蔵なにしゆうがじゃ!」

汲んだばかりの井戸水は冷たかったらしく、龍馬さんはすごくびっくりして大声を出している。

私と慎ちゃんは笑い転げて逃げ回る。


西日にあたった水滴がキラキラ光ってとっても綺麗。そんな中、水を掛け合ったり木の陰に隠れたり大騒ぎしていると、ふっとみんなが子供の頃もこんなふうにはしゃいでいたのかな、と一瞬幻影を見たような気がしてわたしはじっと見つめてしまう。


それは、今は志の為に命を狙われたり刀を抜いて斬りあったりする彼らの日常から、はるか遠く離れたなつかしい姿。



「姉さん!危ない!」

「きゃっ」

ぼんやりしてたら、水が派手に降りかかってきた。龍馬さんがにしし、と笑いながら柄杓を手に悪戯小僧みたいに笑ってる。


「もう!龍馬さんたら」


たしなめるように二、三歩近づいた、その時。





仁王立ちの龍馬さんの腰に巻きついていた手拭いがはらりと落ちた。
真正面からダイレクトにそれを見てしまったのはわたし。




「いやーーーっ!!」



目を覆って叫ぶと、龍馬さんはぽかんとしてわたしを見ていたけど、ふと自分の股間を見下ろして驚きの叫びをあげた。



「おおおっ」


「龍馬!!汚いものを深雪さんに見せるんじゃない!」


また蜂の巣を突いたような大騒ぎになってしまった。

そして。




水かけ合戦のおかげで、すっかり水浸しになってしまった洗濯物を前に、わたしたち五人はお登勢さんにこってり油を搾られる羽目に
なってしまったのでした。






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