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□嘲笑アイロニー
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じくじくじくじく。
膿んだような痛みが薄い腹の中を駆け回る。

食あたりとも違う、鈍痛。
痛みで叫ぶほどでもないが普通に座ることも出来ず異様に広いトイレの中で貧相な体を折りたたんだ。


「うー…っ…」


控え目な蛍光灯がだだっ広いトイレの中を映し出す。
正直広すぎる。異様だ。一人暮らしでこの広さは異常。
日本人はお金を手に入れるとため込む性質があるらしいが、唯一金を惜しまないのは住居らしい。

特にトイレや浴室に執着を見せる…と何かで読んだことがある。
正直蚤虫のあの人もれっきとした日本人だったわけかと嘲笑が漏れた。


「……っ!」


せっかく思考回路をずらしていたのにまたあの鈍痛が襲ってきた。
痛みに耐えるように体を折れば、後孔から液体がこぼれていく音がする。
ちょろちょろ、と水温が響いていく。


(異常なのは僕のほうだ。)


これまた異常に柔らかい紙で拭えば流れきらなかった白い液体がこびり付く。


今日はどうしてあんな目にあったんだっけ。彼と元々こんな関係であったわけではない。
自分がゲイだった自覚もないし彼に愛を告白した記憶も残念ながらない。

彼から愛の告白を受けた経験はあるがはて、あの時はどう対処したんだっけ。
断ったはずだ。
確かに断ったはずだがならどうして彼と体を重ねる関係になっているんだ。


考えようとしても痛みで朦朧とした頭が上手く働かない。





「……帝人君…大丈夫…?」


重厚すぎる扉の向こう側からいつもの彼とは思えない暗いか細い声が聞こえてきた。
こうしたのは貴方のくせにどうしてそんな声を出すんですか。
後悔してるんですか?懺悔にでもきたつもりですか。
怒れない僕を嘲笑っているんですか。


「…帝人君。」

「大丈夫ですから…寝ててください。大丈夫ですから。」

「………。」

立ち去った足音はない。
代わりにずるり、という衣擦れの音と重い何かが扉の前で床に落ちる音がした。
どうやらテコでも彼はここから離れないらしい。
そんなに心配ならこんなことしなければいいのだ。


「帝人君。」

「………。」

「怒ってるの?」

「………。」

「俺、帝人君の事好きなんだよ。…本当だよ。」

「………。」

「本当だよ…。」


くすんくすん、としまいには扉の向こう側から鼻をすする音まで聞こえてきた。
これだから困る。
普段の彼はどこへ行ってしまうのか。
嗚呼、いつもの世界のすべてを愛しているようで嘲笑う、そんな彼なら口汚く罵ってやれるのに。

最後にもう一度、鈍痛の治まってきた下腹部に手を這わす。こびり付いていた白い液体はほとんど残っていなかった。


「……臨也さん。」


声をかけたわけではない。
ただ呟いただけだ。

だがそれに反応するように扉の向こうの空気が揺れた。
トイレの中には白いふやけた紙の束と水に澱んだ白い液体。自分の腹の中で彼に注がれた白い液体が今度は汚水に紛れて流れようとしている。

自動洗浄なのか、手も触れていないのに流れ
出た水が紙と彼の一部を押し流していく。
嗚呼、そうか。なんだかスッキリした。
ゴブリ、と淀んだ水音に紛れ込ませるように囁いた。


「僕も貴方のこと嫌いではないんですよ。」




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告白されたけど結局断っちゃった帝人君とそれが許せなかった不安定な臨也さん。
臨也→→→→→←帝人なイメージ。帝人君と臨也さんの関係はラブラブよりちょっと不毛な方が好きです!ヤンデレとは違う着地点迷子な不毛感が好きです!
体調不良を心配するというよりこれ違うもの心配してる話…ですよね!折角リクエストしていただいたというのに(しかも消化超遅い^p^)す、スミマセ…!
腹痛を心配する臨帝の話だったんだ、最初は!

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