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□バーテンと珈琲
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静雄さんを見かけた。自販機に近寄っていく姿からあれ、もしかしてあの自販機は終了のお知らせなのだろうかと少し冷汗を流したがどうやら純粋に喉を潤すためだったようだ。自販機=投下物と考え始めているあたりむしろ自分の思考が終了だ。ごめんなさい、静雄さん(と自販機)。
ブラックの缶コーヒーをその場で飲み始めた静雄さんに声を掛ける、あくまで先ほどの非日常妄想など悟られないように。


「静雄さん。」
「ん、おう。竜ヶ峰。」

何気ない会話。何気ない空気。
臨也さんがいない時の静雄さんは基本的に名前の通り穏やかだ。

「ブラックですか、僕はまだ苦手です。」
「飲めるようになったらコレしか飲まなくなんぞ。」
「はは、それも微妙ですね。」

僕はまだリプトンのミルクティー辺りがお似合いです、と笑えば子供だなと頭を撫でられた。大きい掌に自分の頭なんてすっぽり埋まってしまう。
自分がきたことで一気に珈琲を煽ろうとしている静雄さんを止める。折角会えたのだから少し話をしたい。

「僕も何か飲もう…か、へえ…珈琲ゼリーなんてあるんですね。」
「あ、ゼリー?」
「ほら、缶ですけどゼリーですよ。珈琲ゼリー」

気になりますね、と笑いかければ彼の細い指先から銀と銅のコインが消えていくのが目に入った。それを合図に目の前のボタンが赤く点灯する。

「え、あ…静雄さん」

止める間もなく押されたボタンを見れば件の珈琲ゼリー。もちろん落下してきたものもコーラなど検討外れのものでなくやっぱり珈琲ゼリー。

「あの…静雄さん…」
「いいから、遠慮すんな。学生が。」
「はあ…」

ここまで来たら逆に断るのも失礼だろう。既に珈琲を飲んでいる静雄さんに向って悪いですよこれも飲んで下さい!なんていった日には静雄さんの胃袋が珈琲×珈琲ゼリーでカフェイン大発生だ。確かに万年金欠なことも否めず言葉に甘えて頂くことにした。

「…ありがとうございます。」
「おう。」

開封しようとタブに手を掛ければ「よく振ってお飲み下さい」との印字。なるほど確かに中身はゼリーのようだ。ふっても塊が上下する音がするだけだ。シェイクするのか、と腕を振り上げた瞬間隣で缶を咥える静雄さんが目に入る。バーテン服。
以前の職のまま使っているというがつまり以前はバーテンをしていたのだろう。
バーテンダー=シェイカー=何か振るのが格好良い人
むしろ静雄さんがシェイカーを振っている姿が格好良すぎる。どうしよう、想像しただけで顔が赤くなった。

「…?飲まねえのか?」
「あ、いえ。これ振ってから飲むみたいで…」
「ああ、借してみ。」

彼の手が缶を掴むと両手で素早く震う。シェイカーよりは聊か小さめだがやはり手慣れているのだろう。缶を振る姿があまりにも似合いすぎていて直視できない、ああもったいない。こんなに缶を振って似合う人は間違いなく池袋中を探しても静雄さんだけだろう。

「っし、出来たぞ。」
「あ、ありがとうございます。」

手渡された缶はほんの少しだけ静雄さんの手の熱でぬるくなっていたがその温もりすらも嬉しかった。タブを引けば珈琲の香りが鼻腔をつく。
ゴクリと中身を咽下すれば確かにコーヒーゼリーだ、まごうことなき珈琲ゼリーだ。
しかもミルクとゼリーの粒が見事なほどに混ざり合っていて絶妙に美味しい。


「美味いか?」

その問いに缶を口に付けたまま首を上下に振れば口角を上げて笑われた。だが馬鹿にされた気はしない。ただこうして非日常の彼の隣で日常を味わえることがただ嬉しかった。



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リハビリ中リハビリ中
短いですね!たまにはほのぼの。
原点に戻って可愛い静帝を。お互い好きだけどまた気が付いてない純情カッポー!
臨也が出てくるとただ殺伐した空気に大変化^p^

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