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□ブラウン管越しの好敵手
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人様から言わせれば俺なんてたいしてストレスも感じないような仕事をしているわけで。定職について朝晩満員電車に揺られながら通勤する世間様の目に適った一般人から見たら俺なんて底辺なもんだろう。だがそれでもやはり仕事後は疲れるのだ。

喧嘩人形といえども仕事が終われば疲れるのだ。

家に帰ってももちろん誰もいるはずがない。一人暮らしを何年も続けていれば自然とこの暗闇にも慣れる。
暗闇の中で器用に電気をつけまっすぐ定位置であるベッドサイドに腰掛け、未だアナログのポンコツテレビのスイッチをつけた。

「あ゛―、疲れた…」

愚痴でも弱音でもない素直な感想を吐き出し帰り道に買ってきたビールを開ける。
小気味良い金属音と共に泡が漏れてきた。CMを移すだけで特に番組が流れていないテレビ画面に目を向ければ胸ポケットに入る電話が振動する。
差出人を見ると自然と顔がゆるんだ。

竜ヶ峰帝人。

何の因果か恋人となった年下の少年。自らの超人めいた力にも恐れず認めてくれる彼は今やなくてはならない存在となっていた。

あー、自分気持ち悪いな、等と思いながらもやはり口角を上げたままメールを開けば


『次幽さんがトーク番組に出ますよ!』


という簡素なメール。数度幽と自分と帝人、3人で会ったことがある。純粋に非日常を愛するあいつは幽という画面上だけの存在が飛び出してきたことに驚愕し喜んだ。あいつの喜ぶ顔が嬉しかったのは確かだが幽に嫉妬したもの確かだ。
だがどうやらあいつの目に俺達は仲良し兄弟に見えるらしい。まああながち間違っちゃいないんだが。
まあ、時によるよな。兄弟ってのは特に仲が悪くない時がある。それは…


『はーい、皆さんお待たせしました。今日のゲストは羽島幽平さんでーす。』


そんな化粧の濃い司会に合わせて見えない会場からは黄色い歓声があがる。画面が転回した後映るよく見知った顔を見てそう言えばあいつ最近会ってなかったな…と思うがまあ兄弟なんて育ってしまえばそんなもので。テレビに映るあいつも数カ月前となんら変わっていなかった。

特にテレビなんてつけていて見ないようなものだから仕方ない。帝人から時々幽が出ているというメールが来るが如何せん夜を拠点に仕事をする自分には見られないことが多く恋人を少し悲しませているのだが。
久々に弟のトーク下手でも見てやるか、帝人も喜ぶだろうと何かくだらない世間話をしている幽に目を向ける。黒い服を着て青みがかったサングラスをかけたアイツの表情は伺い辛かった。

『最近幽平さんそのサングラスよく掛けてらっしゃいますよね。凄くお似合いですがお気に入りなんですか!?』 

『ええ、凄く気にいってくれてる人がいて…もうこれをかけるのは癖ですね。』

『まあ!そのお相手っていうのはまさか聖辺ルリさんだったりします!?』


黄色い悲鳴と明らかな落胆が混ざった歓声とため息の乱舞が会場から洩れてくる。その声と司会者に答えるように幽はいつものような曖昧な返事で誤魔化した。

だが気がつく。普通は気がつかないのかもしれないが俺が気がつくのは仕方がない。
良い子がテレビに近づいてはいけない距離まで接近し目を細めればあいつが欠けているサングラスは有名ブランドでも輸入品などの高価なものではなく自分が適当に買ったものと全く同じデザインのものだった。
嫌な予感がする、とばかりに冷汗が流れ落ちる。畜生まさかこれは。


『さあ、どうですかね…』

『あ、その笑い方!今ファンの方から凄く人気なんですよ。以前あまり笑わなかったですよね!』 


少し失礼なんじゃないかと思われる司会者の言葉に反応したように笑う幽。
確かにあいつは以前演技以外で笑う事は極端に少なかった。だが生まれた時から一緒にいる俺でさえあんな笑い方は見たことがない。いや見た事はないのだが聞いた事はある。


『静雄さんのその笑い方が大好きなんですよ!』


帝人がいうのだ。普段怒ってるように見えるのに話すと少し意地悪そうに笑うその笑い方が好きなんです、と。確か幽と一緒にいる時に言って彼からバカップルと不満気に呟かれたのは記憶に新しい。まさにその笑い方がテレビで表現されているのだからああ、自分はこんな風に笑っていたのか。と再確認している場合じゃ…ない。
そういえば以前会ったとき帝人が言ってたな。


『静雄さんはそのサングラスがチャームポイントですよね!』


やはりその時もこちらをブスリと見上げて幽はふうんと呟いた気がする。そのあとサングラスが…などと意味のない事をつぶやいていたがその時は大して気にも留めなかった。
頭の中の記憶と今まさにテレビの前で喋っている弟の言葉が重なり合って混乱する。
そんな同じ言葉がループして回っている俺の頭にブラウン管から話しかける弟がとどめを刺した。


『ええ、これもある人のおかげなんです。今日もきっとテレビを見てくれてると思うので…。』


また黄色い悲鳴やら何やらが聞こえるがもうそんな言葉は耳に届かない聞こえない。気がつけば携帯電話に手を伸ばしている自分がいた。

あまりにも力を入れすぎて携帯ボタンが取れそうになるが気にして等いられない。
テレビを消せ!などと一般から見たら頭がどうにかしてしまったのではないかと思われるメールを勢いで送信し金に染められた頭をかきむしる。


「あ゛―、この年で兄弟喧嘩かよ。」


そうだ。
俺と幽は本来決して仲が悪い兄弟ではない。

むしろこんな兄を気に掛けてくれるのだから兄弟仲はいたって良好といえるだろう。
だが温厚な幽とひどく喧嘩することがある。それはきまってお気に入りが被ってしまった時だ。ある時は洋服だったり食べモノだったり遊具だったりした。ある程度年齢が来た所で弟に譲るという選択肢を覚えたが幼い時はそれは酷いものだった。

だが残念ながら今回は譲ってやる等という紳士的な選択肢が出るはずもない。たとえ相手が弟であってもだ。


返信のない携帯電話を握りながら何とか落ち着こうとビールを煽るがすっかり炭酸の抜けたソレは自分を苛つかせる対象にしかならなかった。



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珍しく誰も病んでない(^p^)
楽しかったです!ヤンデレじゃなくてスミマセヌ!
いつか平和島サンドでヤンデレたいな!幽さん好きだ!



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