SS

□縮まらない距離
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昔からそうだった。
お前が見ている世界と俺が見ている世界は全く違っていた。俺の中の世界は専らお前を中心に回っていたのだ。

朝起きて学校に行って放課後遊んでそして帰宅して眠り。そのうちのほぼ10割を竜ヶ峰帝人という同級生が占有していたことは否定出来ない。だがあいつは違っていた。もちろん親友として他の奴らに比べたらアイツの中での俺の占める割合は大きかったろう。
だが確実にアイツの、帝人の中ではその他大勢もそれなりに比重を占めていたのだ。俺にはアイツだけだったというのに。

だがそんな歪な恋心を抱いた俺とて大人の都合に逆らうことは叶わなかった。

正直焦った。離れている間にアイツは俺のどこの馬の骨とも知らない奴と話して笑って同じ空気を吸っているのだと思うと虫図が走った。

だから図ったのだ。何も知らないアイツにPCという道具を与え池袋という街に誘った。
誰よりも非日常を愛しているアイツはすぐに飛びつくと誰よりも帝人を理解している俺だから分かったのだ。

髪の色を抜いた。
耳に針を刺し穴をあけた。
(そしてあのグループを作った)
親友という日常の中にアイツの知らない俺という非日常を組み込んだ。

それでいて竜ヶ峰帝人の中での俺のイメージを崩さないよう喋り方も接し方もお決まりの寒いギャグもそのまま日常として残した。

図ったのだ。
非日常をこよなく愛すアイツも流石に回り全てが日常とかけ離れているものだったなら。
非日常の中において日常を恋しく思うだろうと。案の定初めての池袋駅だったのだろう。
「紀田君!」と、上京してきたあいつは不安と疲労に押しつぶされる中俺を見て目を輝かせると同時に安堵の息を漏らした。


だが甘かった。
そんな数か月前の俺をぶん殴ってやりたい。そんなんじゃあアイツを縛りつけておけなかったのだと。
もちろん俺たちの関係に変化はない。学校ではクラスは違うものの大半の時間を過ごすし登校も下校も休日だって共に遊ぶ。だが変わったのはアイツから出てくる言葉。
最初は紀田君紀田君と俺の名前を呼び続けていたのに。

畜生。
畜生畜生畜生畜生。

最近飛び出してくるのはアレだけ近寄るなと行ったはずの池袋(及び新宿)の住人たち。ロシア人の寿司屋から胡散臭い新宿の情報屋しまいには池袋の喧嘩人形の名前まで飛び出してくる。しかもそいつらの名前を彼はとても幸せそうに話すのだ。

非日常を愛す幼馴染にとって彼らは羨望という対象なのだ。それに比べて自分はどうだ。
相も変わらず「親友」というポジションから動けずにいる。
帝人の中で存在しなかったあいつ等は帝人の中に新しい場所を作っているというのに。
俺は親友止まりだ。
俺はお前をこんなに愛してるのに畜生お前は俺の事を結局親友としか見てくれないんだ。

畜生、畜生!
今だ彼の中で一番のポジションである親友の位置が誰かに脅かされるのが恐ろしい。奴らの誰かに一番の座が奪われるのは今日の夜かもしれないし明日の朝かもしれないのだ。
怖い怖い怖い。彼の中で自分が置いて行かれるのがこわい。
俺の知らない彼の時間が恐ろしい。



『帝人帝人、今何してる〜、いやむしろこんな時間に電話しちゃうなんて俺とお前はベストカップル!?寂しい夜を俺のピロートークで慰めてやろうか?』

『ははっ、正臣何言ってんのさ。普通にもう寝るだけだよ。』

『嘘こけ〜、どうせまたパソコンやってるんだろー、そんなんじゃニートじゃなくてお前のボロアパートの自宅警備員になっちゃうぞー。』

『や、やってないよ!それにニートっていうなよ!』

『どーせ一人でまた食費節約サイトでも見てたんだろー主婦か!お前は!』

『み…見てないっ!見てないっ!もう、本当に寝るんだからね。メール返さないからね』

『おう。』




背後で電気の消える音がする。春から夏に向けて急激に温度を上げてきたこの季節は夜と言っても蒸し暑い。変に厚着をしてきてしまった首から汗が一筋垂れた。

数分前まで継続的に響いていたメールの着信音も消え今は室内も真っ暗だ。おそらく部屋のある時は文面通り眠りについたのだろう。
部屋の主を眠りにつかせた家は早くお前も帰れとばかりに俺を拒絶する。この部屋に入ってしまいたいのに掛けられた鍵が俺を拒む。


「くそっ…」


何故自分はここにるんだ。
答えは単純明快。
不安で仕方ないからだ。もしかしたら帝人が俺の知らないところであいつらと電話してるんじゃないか。いや実際していたこともあった。だから俺は毎晩ここに来ずにはいられないのだ。親友であるが故に突然訪れても彼は笑って開けてくれる。だから今はこの親友というポジションに甘んじよう。
もしアイツらの誰かが俺の居場所を奪おうというのなら例えそれが誰であろうと絶対に許すものか。


「お休み帝人。」



そっと無機質な冷たい扉を唇を落とす。愛おしそうに。まるで彼に口付けるかのように。



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病み正臣×帝人。むしろ正臣→→→→帝人レベルになっちまった(^p^)
あとこれ病みっていうかストーカ…ゲフゲフゲフン。もちろん正臣はマナーモード。
あれですよね。確実に新聞入れから中見てますね。この正臣。
静雄とか臨也さんから電話が来てると偶然を装ってピンポンします。邪魔します。
あああ、駄文になってもーた!
でも楽しかったです!リクエスト本当にありがとうございました!!



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