SS

□被害妄想
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俺の愛した子供が死んだ。嫌正確にはまだ彼の心臓は鼓動を打っているし、彼の眼球は間違いなく俺を映しそして愛すべきその唇からはいつものように俺の名前を呼んでくれる。だが俺の愛した子供は死んだのだ。
俺がいない場所で俺が気がつかない間にアイツはそっとこの世界に別れを告げたのだ。


「静雄さん。大好きですよ愛してます。」

いつもよりも饒舌に、今までだったら若干照れてはにかみながら言っていた言葉を今は目を細めるだけの笑顔で言い放つ。澄み切っていた透明な眼は今や白く濁った何かが覆ってしまったようでその下の感情が読み取れない。

「帝人。帝人。戻ってこい…頼むから…頼むから。」

戻ってきてくれ。
今までみたいにあの笑顔で俺の名前を呼んでくれ。ああ畜生一体誰がこいつを壊したんだ。
腕の隙間から逃げていってしまいそうなほど細くなってしまった体を骨がきしむほど強く強く抱きしめれば腕の中からくぐもった笑い声が聞こえた。

「帝人…?」


クツクツと笑う彼の笑顔は愛しい人のはずなのにどうしてか一番嫌いで思いだすことすら嫌悪される男の笑顔を思いだした。

「駄目ですよ、優しくしてくれたら。戻りたくなっちゃうじゃないですか。」

漆黒の眼球が黒コートの男の姿と重なりあう。

駄目なんですよ静雄さんは僕の元から去って行ったんですから。僕に優しくしちゃだめだんですよ。僕は静雄さんの事を追いかける番なんですから静雄さんは僕から逃げてくださいよさあ早く。

涙を流すことなく笑みを浮かべてこいつが一体何を言っているのか分からない。いつ俺がお前を置いて行った?畜生分からねえ。分からねえ。
一体お前は何に怯えてるんだよ俺は馬鹿だから言ってくれなきゃ解らねえんだよ。俺のこの糞ったれな力もお前を守るために使ってやるから、お前の為に使ってやるから。
だからそんな悲しいこと言うなよ。


『それでも君が帝人君を置いて行った事実は変わらないけどね』
ハハッとまるであざ笑うかのように幻聴が聞こえた気がした。



誰か教えてくれこいつを壊したのは誰なんだ!


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6巻ネタ。
アレ凄く読んでてあのページビリッといきそうになった!ちょ静雄おおおおおお!
アレ帝人覚醒の大きな引き金になってると信じて止まないクロです。
誰が―加害者ーで誰が―被害者だー!とね。



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