偽物ヒーロー

□12それぞれの気持ち
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「あち゛ぃ〜。」




流れ出た汗が、首を伝って下へと落ちる。

現在体育祭後半戦。

只今の気温30度。

しかも時刻は、1日の中で最も暑いと言われる14時。

しかしこない地獄の様なフィールドで、その種目は始まったんや。






・・・。






『2年、借り物競争終了。次3年生、前へ。』




列の整備を行う先生の指示で、前に出る。

借り物競争に出るんは今年が初めてやったけど、そない緊張はしてへんらしい。

むしろこれに勝てば奢りっちゅーパラダイスに、ウチの胸は高鳴っとった。

スタートライン上で止まり、前を見る。




・・・えーっと、謙也が言っとった借り物競争のルールは・・・。






・・・。




「ええか?放送委員であるこの俺が、ルールも知らない遥に一から教えたるからな。ちゃんと聞いとくんやで?」

「・・・白石、たかがルール教えるだけやのに、何でコイツはこない偉そうなんや?放送委員とか全く関係あらへんし。ちゅーか偉さで言ったらウチの方が上やし、委員長やし。」

「遥、しゃあないで。謙也はこないな所でしか威張れる所が無いんや。可哀想な奴なんや。」

「謙也・・・自分寂しがり屋(←07話参照)で可哀想な奴やったんやな。しゃあないから話位は聞いたるわ。」

「・・・なぁ、最近俺に対する待遇が酷い気がするんやけど、俺何かしたか?!・・・それとな、別にええやろっ!!いちいち細かい事気にすんなやっ。」

「ルール説明する奴が、細かい事気にすんな、は言うたらアカンで?ルール説明やしな。それに、細かい事も結構大事やで?えっと・・・ルールやからな!!」

「あっ、遥。そういえば自分、俺が中1の頃に貸したマンガは?」

「白石っ、細かい事は気にしたらアカン!!」

「さっきと言うとる事違っとるやん!!!」

「やかましいわっ、もうそないな事どうでもええねん!!早よルールについて話せっ。」

「遥、返却はいつでもええからな。」

「・・・おん。」

「ほな、ルール説明始めよか。」




そう言ってバックの中を何やらゴソゴソと漁る謙也。

そして、出てきた物は・・・。

紙芝居やった。


「おん。・・・ってちょっ、待たんかいっ!!」
「何や?どうかしたんか?」

「『どうかしたんか?』やないっ、何自分平然とした顔で説明始めようとしとんねん?!ちゅーか何やその紙芝居!?」




しかも手作りなのか、題名にクレヨンで『かみしばいでるーるせつめい』と書かれている。




『かみしばいでるーるせつめい』って・・・題名まんまやないかい!!

しかもなんや、あの読みにくい字はっ。

中3なんやから漢字位使えやっ!!!

・・・ちゅーかコイツ。

ネーミングセンス・・・皆無や!!!




「あぁ、これか?これはな、昨日俺が徹夜して作った奴や!!」




嬉しそうに紙芝居を見せびらかす謙也。




「徹夜したんか?!これか?!これにか?!自分相変わらず変な所で努力するよな?!」

「嫌、な?昨日財前ん家遊びに行った時にたまたま甥っ子君の面倒見る様言われたんや。で、甥っ子君が絵描いとるの見とったんやけど・・・何や途中からおもろそうに見えてきてな、俺も描きたくなってきたんや。で、一緒に絵描いとる内に・・・何か、こう・・・脳内にビビビって来おってな、これやっ!!って思ったんや!!!」

「嫌、それ単に甥っ子君見てて自分が暇になっただけやろ?!ビビビって・・・自分宇宙人と交信でもしてんのかっ?!退化しとるやん!!あからさま脳味噌退化しとるやん!!!」

「え?そうなんかな?」




手を後頭部に置き、照れ臭そうに笑う謙也。

・・・アホの子である。




「照れるなっ!!!誰も褒めとらんからっ!!!ちゅーかなんで照れるん?!やっぱ自分脳味噌退化しとるやろ?!」

「え?おおきに。」

「やから褒めてへんっちゅーねん!!!何やその爽やかな笑いホンマ腹立つんやけど!!!あー、もうコイツ手に負いきれへん。ウチは知らん。」




その場を去ろうとすると、謙也がウチの腕を掴んだ。




「待ってや!!!せめて紙芝居だけでも見てって!!!」




目がマジだった。




「自分、その紙芝居にどんだけ必死やねん?!ホンマにいろいろだいじょぶか?!」






・・・こうして、謙也お手製の紙芝居が始まったのである。
「『かみしばでるーるせつめい』の始まり始まり〜。」

「・・・。」




紙芝居を机の上に置き、お話を始めようとする謙也。

そんな謙也とクレヨンで描かれた稚園児が描きそうな絵を無言で見つめるウチ。




・・・コイツ・・・。

絵が・・・下手や。




しかし、そんなウチの反応が気に食わなかったのか謙也が文句を言い出した。




「なぁ。」

「ん、どないしたん?」

「何で無言なん?」

「え、何言ってんの君。」




怪訝そうな顔でぶつくさ文句を言う謙也。

つまり謙也君が言いたいのは、もうちょっとテンションを上げて見て欲しい、盛り上げて欲しい。

やないとナレーターとして自分も読みがいがない、という事なのだそうだ。




・・・。

はっきり言ってええか。

コイツ・・・ウゼェ・・・。

しかもめんどくせぇ・・・。




「・・・別に無理して見なくてもええねんで?俺やって無理には見せたくはあらへんし。」

「え・・・あ、そう?ほなウチ帰るわ、そろそろアンパ○マンが始まる時間やし。」

「遥。俺も今日部活あらへんし、一緒に帰らへん?」

「せやな。ほな謙也、また明日。」

「明日の朝練、遅刻するんやないで?」




直ぐ様帰る支度をし、謙也に別れを告げるウチ等2人。




「ちょい待ち!!ホンマに真に受ける奴があるかいっ。ちゅーか遥、アンパ○マンて・・・自分アンパ○マンと体育祭どっちが大事なんや!!」

「え、アンパ○マンやけど。」

「・・・。」


さも当然だという顔で即答するウチに、謙也が唖然とする。

謙也の紙芝居と体育祭がアンパ○マンに負けた、衝撃的瞬間だった。






遥に見る気を起こさせているため、今しばらくお待ち下さい・・・。






・・・数分後。




「お願いします。ホンマ一度だけでええですから見て下さい。頑張って作ったんです。力作なんです。」




ウチと白石の前で土下座する謙也が、そこにはいた。
「え〜、どないしよっかなー?・・・どないする?白石。」




彼女の様な素振りで白石に聞くウチ。

確実に謙也はからかわれていた。




「・・・せやな、話位は聞いた方がええんとちゃう?」

「えーせやけどウチアンパ○マン見たい。」

「録画してへんのか?」

「嫌、録画はしとるんやけどな?今日は食パンマ○様とカレーパ○マンが活躍する回やからリアタイで見たいんや。」

「俺の紙芝居はあんなキザ野郎とキーマ野郎に負けたんか?!そこはせめてアンパ○マンの回に負けたかったんやけど!!!」

「後、とある筋ではおむすび○ン様が出るっちゅー噂も・・・。」

「とある筋って何や!!ちゅーか米粒野郎にも負けたんか畜生っ!!!」




自作の紙芝居を机に叩き付ける謙也。

紙がぐしゃっていた。




「キザ野郎とは何やっ、キーマでヒーヒー野郎とは何やっ、米粒野郎とは何やっ。アンパ○マンナメるんやないで!!!」

「ヒーヒー野郎は言ってへんやろ!?それあからさま遥の本音やんか!!!しかもアンパ○マンの文句は俺言ってへんぞ!!!」

「言うたやろ!?ジャム○じさんが顔を作ってくれるのを良い事に顔を毎回毎回汚したりたまには自ら与えたりするっちゅー八方美人の親不孝息子ってな!!!やから自分みたいなのが『あ、また顔汚れちゃったー。ま、ええか。顔なんてまた作ってもらえばええんやし。』とか調子こいた事言うんじゃボケっ、ジャム○じさんに土下座しろっ。」

「濡れ衣着せんなやっ!!ちゅーかそのセリフ、言うとしたら絶対アンパ○マンやろ?!しかも俺の顔はいくらジャム○じさんでも作れへんわっ!!!」

「え、謙也君何当たり前な事言っとんの?ちょーウケるんですけどーぷっ、クスクス。」

「何やコイツ、メッチャ腹立つんやけど。・・・ちゅーか顔は汚すけどアンパ○マンはいつも皆を助けとるで?ジャム○じさんはいつも苦労するかもしれへんけど、リアタイで見る位好きなんやろ?少し位大目に見てやろうや。」
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