BOOK
□二人一緒に。
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『調教、しなければ』
曽良はふ、と。誰彼構わず笑顔を振り撒く己の師を見てそう思った。
殴る蹴る詰る、では、到底埋まらないそれを、どうしたものかと考えているが。
どうにも考えが巡らない。
『腹が減っているのも、原因だろうな。』
太陽が漸く真上に昇っているのチラリと見やってから、昼食を摂ろうと背後の師を見やる、が。
『……居ない……。』
一体これで、何度目になるのだろう。
昨日は鳥を追い掛けて獣用の罠に引っ掛かっていた。
抜け出せずにグズグズ泣き叫んでいる馬鹿ジジィを蹴り飛ばして助けたのは記憶に新しい。
曽良は溜め息を付きながら草原を見渡す。
『一体何処をほっつき歩いているんだか…。』
つらつらと考えを連ねていたら、いきなり足元からガバッと何かが動き出した。
「ウオオオオオッッッッッ!!!!」
「ッ!?なっ?!?」
思わず驚いてその姿を見ると、探していた芭蕉本人で。
「あっはっは!や〜い曽良くん引っ掛かってやんの!!松尾スゴーイ★超スゴ男!!」
余りにもイラッときたので断罪チョップを脳天に振り翳す。
「この馬鹿ジジィがっ!!!」
「ッゴチョップ!!」
地面にめり込む馬鹿ジジィを見て、改めてホッとする。
しかし、驚いたとは言え、狼狽してしまった己に内心喝を入れつつ。
曽良は襟元を正す。
「で、何やってんですか、アンタは。」
鋭く睨み付けると、すっかりシュンとなった芭蕉は、
「だって…暇だったんだもん…。」
と、涙ぐみながら上目使いでこちらを見つめる。
『……可愛い。』
思わず口元が緩みそうになるのを食い縛り、ムラムラと嗜虐心を掻き立てられるが、
それをせず。
取り敢えずは歩き始めた。
「まぁいいですよ…。それより、昼にしましょう。腹が空きました。」
めり込んでる師を置き去りにして、曽良は手頃な切り株を見つけ、そこへ向かう。
後ろから「待ってよ〜」と言いながら芭蕉がパタパタと追い掛けてくるのを横目に見ながら、昼食の用意をした。