頂き物と捧げ物

□駆け足
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階段を駆け上がり、いつものように扉を開けて屋上へ出る。
まだ寒さが残る春の空気と、ぽかぽかと暖かい日差しを全身で感じながら、真はいつもの場所に歩いて行く。

いつもの場所へ行くと、四ッ谷はソファーに腰掛け、相変わらず変なタイトルの本を読んでいた。
まだ真が来たことに気づいていないのか、視線は本に向けたままだ。

真の中で悪戯心が芽生える。
足音をたてないよう、静かにソファーの後ろに回り込むと、

「わっ!!」

と言って四ッ谷を驚かせるつもりだったのだが、逆に真が驚いた。
何故なら、四ッ谷が素早く振り向いて真の腕を掴んだからだ。

「ひぃっ!?」

強引に引っ張られた真は四ッ谷にギュッと抱きしめられた。

「せっ、せせせセンパイっ!!!??」

体が密着し、かなり動揺している真の耳元で、四ッ谷が囁く。

「気づいてないとでも思ったか? お前が階段を駆け上がって来る音、まる聞こえだったぞ」

「!?」

四ッ谷はシシシッと笑うと、悪戯な笑みを浮かべる。

「駆け足になるくらい、早く俺に会いたかったのか?」

「なっ」

ただでさえ顔が赤く心臓が高鳴っているのに、その言葉で真の顔はさらに熱くなる。
心臓の鼓動も、尋常でないほどドクンドクンと激しく脈打っている。

真は小さく、四ッ谷にしか聞こえないくらいの小声で言った。

「そう…です…けど…」

「聞こえない」

「………」

絶対に聞こえているはずなのに…意地悪。と思いつつも、真は深呼吸を一つして、今度は大きな声ではっきりと叫ぶように言った。

「会いたかっです!! 一分一秒でも早く、先輩に会いたかったですっ!!!!」

「上出来だ」

四ッ谷がさらに強く真を抱きしめた。
真はあまりの恥ずかしさに涙目になっているが、四ッ谷を拒むことなく身を委ねる。

腕の中は温かくて心地好い。
意外にも、シャンプーの良い香りがした。

(この状態が、ずっと続けば良いのに)

真は四ッ谷の背中に両腕を回して、力を込めた。
いつまでもこんな日常が続くよう、願いを込めて。




 
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