断片*記憶のスキマ*

□rain
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雨が降ったら、君に会える。
優しい笑顔を持つ
君に。



----始まりは鬱陶しいぐらいの雨が降っていた。
5月の始め。まだ少し肌寒く、それが雨が降ることによって、よけいに寒い日になっていた。

その日の午前、12時近く、僕は雨が午後から降るなど露知らず、呑気に散歩などしていた。
別にどこへ行こうとも考えていなかった。ただ、今日はなんとなく外に出たい気分だったのだ。

しかし、雨が降った瞬間にその時の気分を恨んだ。


(寒いし、雨で濡れるし、今日はなんて悪い日なんだ・・・・・・。)

僕は、散歩途中にあった待ち合い所も兼ねたバス停で、雨が止むのを待っていた。

「・・・・・・ついてない。」
「それって、雨が降ってるから??」

「・・・・・・っ!?」

突然の声にビックリし、俯いていた顔を上げた。
そこには、優しい笑顔が似合う僕と同じぐらいの年だと思われる女性がいた。

「あは。今、すごいビクってなったね。」

「・・・・・・」

僕は、少しの間彼女の顔を見ていた。

「??私の顔になんかついてる??」

その言葉に、我にかえった僕は「いや」と言葉を漏らした。

「ただ・・・」

綺麗だなぁ、と思っただけ。など、言えるはずもなく。

「ただ??」

僕の言葉を待つ君の言葉にそっけなく返事をするしかなかった。

「・・・なんでもない。」

「はぃっ!?こんなに焦らしといてっ!?」

「・・・ほっといてください。」

"なんでもない"という言葉に嘘はないのだから。そう言って僕は、そっぽを向いた。

「ほっとけ、て言われてほっとくほどお人好しじゃないのよねぇ、私。まぁ、雨が上がる間だけ、話しましょう??」

別に、話す内容なんかないのに、と思ったが、これ以上言っても無駄だと思い、僕は「・・・分かりました。」と了承の言葉を出した。

そうすると、彼女の顔はパッと明るくなり、嬉しそうに微笑んだ。

僕と話しても何1ついいことなどないというのに。
そう思いながらも、僕はどこか心の中で嬉しく思っていた。

「じゃあ、名前当てゲームでもしましょうか!!」
「・・・は??」

一瞬、彼女が言う言葉が理解できなかった。

「だから、名前当てゲーム!!」

「名前を教えたら、そんなゲームしなくてもいぃんじゃ・・・」

「ダメよっ!!絶対に名前を教えないでね」

彼女はすごい笑顔でそう言った。

「じゃあね〜。和也。」

「違います。」

「え〜。ん〜、なんか優しい感じの名前のような気がするのよね。優??」

「違います。そして、優しそうな名前ではありませんね。」

「じゃあ、攻撃的な名前!?猛??」

「攻撃的な名前ってなんですか・・・。・・・違います。」

「・・・ちょっと待って。」
「はい。何ですか??」

「もしかして、一発で名前当てるのって無理があった??」

「一発で当てるつもりだったんですか!?」

「いや、あのぉ、ね。名前をビシッと当てれたら格好いいかなぁ、とか思ったりしない??」

「・・・思ったりしませんね。というか、ヒントもなしに当てようと思うなんて無謀でしょう。」

「あは。やっぱり??」

「・・・やっぱり、って思うならヒントぐらい聞いてくださいよ。」

「はーぃ。で、ヒントは何??」

「ヒントはですね・・・、うーん。この雨みたいな感じですかね。」

「雨??分かった!!虹って書いて"こう"っていうのは??」

「違います。それになんですか、それ。雨関係ないですよ。」

「あるに決まってるじゃないっ!!雨が降ったらその後には虹が見えるのは当たり前よっ!!」

「・・・そうですね。」


なんだか少し疲れてきた。


「まぁ、それで虹だと思ったんだけど・・・。違ったか。」

「もう少し簡単に考えてもいいと思うんだけど・・・。」

「そんなに簡単な名前なの!?・・・て、あ。雨、止んだね。」

「本当だ。」

雨が止んだことに気がついた彼女は、一歩前に足を踏み出してこっちを振り向いた。

「じゃあ。また雨が降った日にここでね!!またねっ!!」

そう言って手を降って走っていった。




後に残ったのは、ポツンと残された僕だけだった。

「嵐みたいな人だったな。」

会話は面白かったけど、正直疲れた。

だけど、なぜか彼女の最後の言葉が頭から離れない。

だからだろうか、僕もまた彼女のように足を進めながら、また雨の日にここに来ようか。と思っていたのだった。





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