みじかい

□甘やかす
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ボクは彼女を甘やかす。
これ以上ないくらいに。べたべたに。

「さーすーけー」

彼女が媚びるようにボクを呼んだら、それは即ち「構って」という彼女の合図だ。
ボクは彼女をそっと抱き締め、柔らかく頭を撫で、そう、甘やかしてやらねばならない。

「佐介、もっとー」
「ああ」
「好きって言って」
「好きだ、咲耶」
「わーいっ」

そうすれば、咲耶は花が咲いたような笑顔を見せてくれる。
ボクにぎゅうと抱き着いてきてくれる。
それがボクだけに向けられるものであれば、どんなに幸せだろうか。
咲耶は同じ表情を、言葉を、声を、他の男子にも惜し気なく振り撒くのだ。
キスして、舐めて、噛んで、吸って、抓って、撫でて。
甘くとろりととろけるような、そんな声音で繰り返される咲耶の欲求を無視出来るやつなんか、この世にいるもんか。
これ以上ない確信を持ってボクは獣になる。咲耶の為に。ボクの為に。

「さすけ、もっと、ああ、もっとちょうだい、佐介…!」

白い喉をのけ反らせ、咲耶はボクの名を叫び続ける。
その喉元や鎖骨、胸元や太股の内側に唇や舌を這わせるボクの髪を握って。
その手つきだけがどこか儚げで頼りなげだ。

「佐介、佐介、さすけ…っ」

姫君に仕える従者のように、皇后に尽くす愛人のように、従順に咲耶に傅いているうちは、彼女はボクだけを見てくれる。
つまりその束の間、彼女はボクのものになるのだ。
切なげに閉じられた瞳からはらはらと零れる涙を舐め取る。塩辛いその液体は、しかしまるで真珠のようだ。
甘く切ない喘ぎを漏らす唇の可憐さを目にしかと焼き付け、ボクは泣きたくなるのを堪える。

「咲耶、いいのか、?」
「ん、うん、いいの、気持ちいいの…!」
「……咲耶…咲耶、咲耶…っ!」

少しずつ滲んでいく咲耶の輪郭。
縋り付いて来る咲耶の手を掴み、そのまま華奢な体に覆いかぶさる。
薔薇のような馥郁とした香りの中、快楽に呑まれた咲耶の短い悲鳴を聞いて、ボクは自らの射精を感じた。





咲耶はボクを、
好きだとは言ってくれないんだな。


愛されたい、愛撫され、腐敗さえ進めるように甘やかされたい、と。
受動的な愛をただ欲する少女を溺愛するボクは。
他人から見れば殊更に、滑稽なんだろう。










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