みじかい

□咲く咲く桜、錯乱。
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瞳が好き。
唇が好き。
頬が好き。
肌が好き。
手が好き。
指が好き。
声が好き。
髪が好き。


――咲耶が、好き。



「……っ、や、だぁ!」

咲耶がまた、俺を怖がって震える。
長い睫毛を濡らし、怯えた視線を俺に寄越す。

「ははっ…泣くなよ、咲耶…」

潤んだで睨まれるのも可愛いからいいんだけど、でもやっぱり、咲耶には笑顔が似合う。だから笑って欲しいんだ。
出来るだけ怖がらせないようにそっと細い肩を掴む。びくりと跳ねたけど、すぐに大人しくなった。
でもまだ小刻みに震えている。可哀相に、大粒の涙を零しながら。

「咲耶…怖がんなよ、な?」
「や…ゆうす…ん、!」

可愛らしく俺の名を紡ぐ形のいいに吸い付く。それはかたく閉じられている。
舌でなぞってもなかなか口を開こうとしない咲耶は相変わらず震えている。

「……んぅ、っ…!」

苦しそうに喘ぐ咲耶。ああ、可愛い可愛い可愛い。
殆どが俺のものだろうが、粘ついた液体が咲耶の華奢な顎を伝って胸元に垂れていく。白い制服の衿に、灰色の染みが点々と出来ていた。
気紛れに、柔らかい下に軽く歯を立ててみる。

「――…ッ!!…ぅ…!」

瞬間、咲耶の目が瞠られる。
じわり、鉄の味がする。切れてしまったみたいだ。
しかしそれでも解放してやらずに、柔らかい感触を楽しむ。
蒼褪めたを撫でると、咲耶のは指先にひどく気持ち良かった。

「………っは、ぁ…」

ようやく解放してやると、咲耶は久しぶりの酸素を必死に体内に取り込む。喉を押さえている小さなを掴むと、小動物のようにびくりと体を跳ねさせた。
そっと握って、愛おしむように咲耶の名を囁く。

「咲耶…咲耶…愛してる、咲耶……っ」
「……ゆ、すけ…」

戸惑うような呟きに、つい最近の咲耶の言葉が蘇る。

『最近の佑助、なんかこわいの…』

ああ、あの言葉で俺は薄々気付いていた歪んだ感情を初めて表に出したんだっけ。
咲耶…咲耶、可愛いなあ…

「なあ咲耶…俺の事、好きだよな?」
「え……」
「好きだよな?俺の事」

少し力を入れて握っただけで、咲耶はひどく怯える。細長いを口元に近付け、視線が宙を彷徨う。
そしてなぜか躊躇いがちに、咲耶は言葉を紡ぐ。

「す…好き、だよ…?」
「なにが?」
「え…っ……あ、佑助、佑助が好きなの…っ」
「…もっと」
「……え、」
「もっと…名前、呼んで……っ!」

ああ、堪らない。
思わず小さく叫んでしまった俺を、咲耶はまた泣きそうな目で見、薄くを開く。

「佑助、佑、助、佑助…」
「もっと…咲耶、もっと……!」
「…っ佑助、佑助、佑助、佑助…ゆうすけ…っ!」

を震わせ、必死に俺を呼ぶ咲耶。可愛い可愛い俺の咲耶。
でも、足りない。

咲耶のが、咲耶が足りない。



「……も、いい」
「…佑助…?」

おもむろに低く呟く俺を訝る咲耶。
しかし俺はもう決めた。

足りない、どうしても足りない。
埋める事が出来ないんだ、心の穴を。
だからいっそ、いっその事。


咲耶を壊そう、と。
怯える咲耶のを撫で。
愛してると囁いて、微笑む。


「……ゃ、いや…佑助、佑助…!!」





咲耶が最後に見たのが俺の笑顔、だなんてさ。
それってものすごく、幸せなことだと思わねぇ?




(だから俺はにっこり笑って、咲耶の最期を見送るんだ)










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