みじかい

□完璧主義者
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完全に、ボクのミスだった。ありえない、それが最初に感じた事。次にどうしようもない情けなさと申し訳なさで一杯になって、震える声で何度も何度も謝った。
皆、気にするなと言ってくれた。
だけどそれが自分にとってだけでもどれだけの損失となったか分からない筈もなく、ただただ己を恨み憎んだ。その気持ちが他にゆかぬように。
その後誰もボクを責めなかった、皆優しかった。ただ一度、何気なく先生が言ったきっと悪気のない一言だけを除いて。

『椿くんがミスをするとはねえ』







「悲しかったの?」

咲耶はあまり抑揚なく喋る。透き通った茶色の目は静かにボクを見下ろしていた。ボクは黙っている事にした。

「それとも、悔しかった?」

咲耶の細い指がボクの髪に絡まる、ゆっくりとした動きの心地好さに目を細めてしまう。胸の内では未だどす黒い想いが蜷局を巻いているというのに。
ボクの肩を抱く手に僅か力が入った。

「…佐介」

愛おしむような哀れむような慈しむような嘲るような。咲耶はいつもの声音でボクの名前を口にした。咲耶の瞳がそっと閉じられた。

「…佐介、佐介は怖かったの?」
「な、にが」

聞かれているのはこっちなのに、質問を質問で返してしまった。目を瞑ったまま咲耶はまた口を開く。紅く濡れた舌が、静かな妖しさを伴って見え隠れした。




「完璧で、なくなるのが」




咲耶の澄んだ茶色がボクを射抜く。咲耶は二回程瞬きをした。ボクは、目を細めた。悲しそうに、だ。

「…大丈夫、だよ。佐介は、凄いよ、しっかりしてるし厳しいし、」
「"完璧"では、ないけど…?」
「……、うん」

咲耶の瞳が閉じられたのは何を意味するのか、見えていないのをいい事にボクは遠慮なく口元を吊り上げた。

「大丈夫、私は佐介の事、大好きだから、」






完璧主義者の企み



(そう言ってくれるのを待っていた)







******


ボクは全てに於いて完璧である事を望む。
その為には一つのミスなど厭う理由もない訳だ、意味が分かるか?
否、そのミスすらも「完璧」のうち、だ。


つまりは咲耶、ボクはきみが欲しかった、ただそれだけ。

勿論皆には申し訳ないと思ってる、だけどほら、これできみはボクのもの。
これにて完璧な計画は、完璧に遂行された。

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