みじかい

□ふわふわ
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最近ボクはおかしいのかも知れない。
頭の中がぐちゃぐちゃで、
心臓がばくばくして苦しくて、

神坂と居るのが、辛い。



「……神坂?」


空は晴天。
半分程開いた窓からは、柔らかく風が吹き込んで来る。
暑くもなく寒くもなく、過ごしやすい気温。

そんな条件が揃っているのだ、気持ちは分からなくもない、けど。


「…寝たのか?」


返る声はない。
やはりボクの思った通り、神坂は眠ってしまったらしい。
向かい合わせた机に伏せ、さっきまで忙しなく動かしていた筈のシャープペンシルを握って。
そして書きかけのプリントを腕の下敷きにして。

まあ、教えている最中に生徒会の仕事を始めてしまったボクも悪いのだろうけど。
しかし自分から教えてくれと頼んでおいて寝るとは、なかなか度胸があるらしい。
しかも、このボクの前で。

ボクが厳しく多少うるさいと生徒の少数に認識されている事は知っている。
別にそんな風評気にしないし、構わない。
寧ろ誇ってもいる。
だってボクのそれは、より良い学園を創る為の想いなのだから。
…それなのに。

なぜ神坂には強く言えないのだろうか。
校則違反、ではないが、宿題をやっている最中に寝るなんて不謹慎だ。
だが気持ち良さそうに眠る顔を見ると、そんな思いはどこかへ消えてしまうのだ。


「……神坂…起きろ、まだプリントが終わっていない」

「…………」

「…神坂……」


絞り出すように声を掛けるが、神坂はぴくりとも反応しない。
ただすうすうと寝息を立てるだけだ。
腕一本分もない桜色の頬との距離に、思わず伸ばしかけた手を慌てて引っ込める。

引っ込みのつかない手を眺め暫く躊躇ってから、ボクは結局神坂に触れてみる事にした。
そうっと、そうっと、慎重に、親指の腹で頬を撫でる。

(…やわらかい、)

どこか綿のようにふわふわしていて、緊張からか冷えた指先には心地好い体温。
華奢なのに柔らかい輪郭は、ボクや周りの男子とは全く違うもので。

(やはり神坂も、女子なんだ)


「……む、ぅ…」

「……!!」


ほんの僅か神坂が身をよじった。
擽ったかったのだろうか、小さな声も漏らした。
黒い髪に隠れていた顔が少し見えた時、またボクは、おかしくなった。


動悸が速まる、脈拍も上がる、顔が熱い、眉間に熱が溜まる、

息がうまく、吸えない


「………」


どうしよう、どうしよう
どうすればいいんだボクは

どうしたらこの気持ちは抑えられる?

いや、その前に、この気持ちは何なんだ?


なぜボクは、神坂を名前で呼びたくて、

神坂に、触れたいんだ?




それは触れた頬と同じ
ふわふわした感情で、


(…神坂、)

(……いや、咲耶、)

(今すぐに起きなければキスするが、構わんな?)








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やっぱり椿くんは難しいよ。でも好きだ。

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