Boy


□Cheers!
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「ゾロとこうして飲むのも二年ぶりなんだな!」
ルフィが隣で酒の入ったカップを手にしたゾロに笑いかけた。
「そうだなァ」
ゾロはサウザンドサニー号の壁に寄り掛かったままそう口走っただけで酒を煽った。
その態度が御不満だったのか、麦わら帽子を被ったこの船のキャプテンは少しだけ頬を膨らませた。
「なんだよぉ、もう少し喜んでくれたっていいだろっ」
何をいまさら……言い出すのかコイツはなどと思う半面、ゾロは彼がそういうのも無理はない気がした。
二年振りに再会した恋人はそうはかわっていなかった。
いまさら、二人の関係がそう簡単に変わるはずがないと思っていたものの正直不安が全くなかった、とは言い切れない。
劇的な出会いとも言える二年前、まるで磁石のようにお互い惹かれあい、海を照らす太陽よりも強い情熱を燃やした。
そんな記憶をリピートしながら離れ離れだった二年間、ルフィに会えないことをもどかしく感じた。
そしてその想いが彼へのこの感情を持続させるエネルギーになったわけだが、もし彼が自分と違っていたらという一抹の不安がゾロの頭をよぎったのも事実だ。
そんなゾロの心中はいざ知らず。
ゾロのバカ、だのハゲだのと耳元でぎゃあぎゃあと喚くルフィ。思わずゾロの口から笑みがこぼれた。
二年前とそうかわらない懐かしさが心地よくて……。
「何がおかしいんだっ?!」
眉尻をあげて詰め寄ってきたルフィを見つめてゾロは涼しい表情でこう答えた。
「別に? ……お前と飲む酒がやっぱり一番うめェから」
「へ? あ!」
マヌケに口をポカンと開けたまま大きな目がさらに大きく見開かれたと思った途端、彼は手にしたカップから一気に中身を飲み干した。
「何やってんだお前……」
突然の行動に呆れながらそう言ったゾロをぷはっ、と口元を袖で拭ったルフィは朱に染めた頬で見据えた。
「おれもっ、ゾロがいちばんなんだからなっ!」
彼の手にした空のカップからポタリ、滴が零れて甲板に落ちて。一瞬静寂に包まれたような気がしてゾロも目を見開いた。
おれのこと、まだ好きか? だなんて。いまさらだよな。
久々にまた胸倉捕まれたような気分になったゾロはニヤリと笑って、唇を一の文字に結んだままこちらを朱に染めた頬で食い入るように睨みつける船長に対抗するように視線を返す。
「へえ……。そりゃ気がつかなくて悪かったな。とんだ失礼しちまったな、船長」
「んん! わかればいーんだ!」
腕を組んでうんうん、と頷いたルフィに頬が赤いのは自分のせいか、酒に酔ったせいか? だなんて聞くのも野暮な話だ。…そんなもの、とっくの昔から酔っているに決まっている。きっとこの二年間、ルフィもゾロと同じで野望と言う名の夢で見つけた醒めない酔いの中に居たのだろう。
「なあ、ルフィ」
「ん?」
「…おれがした約束、覚えているか?」
「…うん」
時間を戻すことも、距離を越えることも出来はしない。だが時間が、距離が、全てを決めるわけじゃない。現に二人の関係は変わっていない。二年前、離ればなれになったあの日から今、この時まで、その全てが教えてくれた。
「この船に居る奴らは全員そうかもしれねェけど。おれはお前に惚れ込んでんだ。だから」
気が遠くなる様な痛みの中で在りし日に、もう二度と負けないと誓った。いつしか、彼の野望に付随することがもう一つの夢になっていた。
「お前が側にいなきゃ、意味がねェよ」
ルフィはそれを聞くと、ふっ、と笑みをこぼした。
「…おう! おれはもう、二度と離さねェからな! 仲間も、夢も…ゾロもな!」
「…よし」
「お?」
ゾロはルフィの空になったカップを持った手を掴んで、自分のカップから中身を少し移した。
「そうときまったら乾杯しようじゃねェか。再会を祝うのと、この先の航海と未来を願って」
「おう!」
誰よりも一番側で、お前の背中を守る。全部、君にとってのいちばんであり続けられたらと思う。
願わくばこの酔いが世界の終わりまで続くように、と。そう願い、一気に中身を飲みほした。


End

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コミケ、インテでの無配ペーパーから。
発行した本がR18しかなかったので18歳以下の方がスペースにいらしたら申し訳なく思い…。
お酒と乾杯をテーマに初めて二年後の二人を書いてみました…。

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