ブック 短編
□想いよ届くな
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『ずっと想い続ければいつかきっと この気持ち君に伝わる…』
町を歩いていて、ふいに耳に入ってきた一節。
その辺の家で窓を開けたままラジオでも聞いていたのだろう。
普段はそんなもの気にもとめないのだが、そのたまたま耳に入った部分の歌詞に思うところがあって俺は誰にともなく呟いた。
「もし本当に想うだけで伝わるなら…怖いな」
そんなことで容易に伝わってもらっては困る想いがこの胸の内にはある。
そもそもが伝える気のないこの気持ち。
最初はただ、甘すぎるあいつににバトルでは何故か勝てないことにイラついて、会う度に突っ掛かって。
いつのまにか気になってしょうがない存在になって、触れ合ううちに自分の想いを自覚した。
何度も衝突して、でも最終的には認め合って。
あいつは俺を好きだと言って、俺もあいつが好きだと答えた。
だけど。
俺にはあいつに愛されるような資格はないなんて、いつまで消えない自虐心を。
俺以外には人でなくとも触れるな話すな目も合わすなと望む、醜い独占欲を。
自分だけのものにできないならいっそこの手で殺したい、そんな破壊衝動を。
伝えてはいけない。
知られたくない。
そしてあいつに嫌われたくない。
ああ、それすら結局自分の都合。
なんて自分勝手な人間なんた俺は。
ともあれ、本当に想うだけで相手に伝わるなんてことがあるはずもなく。
きっと俺は、これからもこの伝わりはしない想い達を心の奥底に隠し続けていくのだろう。
「想うだけで伝わってもらっちゃ困るんだよ…」
そう言って、たかがたまたま耳に入った歌のフレーズにここまで深く考える自分に自嘲する。
「いつの間に、お前は俺の中でこんなにでかくなったんだろうな」
そう、こんな些細な事柄でさえ無意識に結び付けてしまう程に。
終