ブック 短編

□甘えることができなくて
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例えばそれは他人から見ておかしいと思うような行動かもしれない。
だけど、それは甘え方を知らないあいつなりの甘えなんだと思う。





「…どういう状況なんだよこれ」

俺は、シルバーの顔を見上げながらそう尋ねた。

「…『殺したい程愛してる』、と。そういうだろ?」

シルバーは、俺の顔を見下ろしながらそう答える。

「まぁ、ドラマとか漫画でならたまに聞く台詞だよな」

「だが、それでは生温い」

シルバーの手に、わずかに力が込もるのが解った。

「馬乗りで俺の首に手をかけながら言うなよ地味に怖ぇからさぁ」

いつものような飄々とした態度でそう返した。
シルバーは、そんな俺を無視して話を続ける。

「…本気なら、『したい』で止めず行動を起こすとこまでするべきだろう」

「で、今この状態かよ?ったく、珍しくお前から会いに来たと思ったら理由が『殺す為』ってのはどうかと思うぜ」

「されるがままのお前も大概だと思うがな」

違いない。
おかしいのはお互い様、ということだろうか。

「…まあな。でも、悪いけど俺はお前に殺されてやる気はねぇよ」

「…俺がこんなに、殺すほど愛してるのに、か?」

背中がゾクリと震えたが、それが恐怖からなのか歓喜からなのか俺には判断がつかなかった。
まぁでも、どっちも半分半分といったとこかもしれない。

「だから怖ぇって。俺だって愛しい恋人の願いを叶えてやりたいって気持ちがない訳じゃないんだぜ?」

「だったら…」

『このまま俺に殺されてくれ』、ってか?

「でもさぁ、そしたらシルバー、お前泣くだろ」

「………は?」

呆けた顔をするシルバー。
…ちょっとレアな表情だと思いつつ俺は更に主張を続ける。

「お前、俺を殺したら後で泣くことになるって、絶対。けど、俺はお前が泣くのは嫌なんだよ」

「…訳が、解らない」

いってる俺だって実はあんまし解んねぇよ。

「…俺ってさぁ、結構自己中なんだわ。だから、お前の望みをきいてやろうってのよりもお前が泣いたら嫌だっていう自分の気持ちが優先されるわけ」

続けて『解る?』とシルバーに言ったが返事はなかった。
シルバーはしばらくは黙っていたが、やがてポツリとこう言った。

「…お前は馬鹿だ」

「それはお前もだろ?なぁ、その馬鹿のことをを殺そうとする程好きなシルバーちゃん?」

おどけてそう言えば、シルバーはフッと笑って俺の首から手を離した。

「そうだな。…俺は、馬鹿だ」

改めてこちらに伸びてきた手は、今度は首を通り過ぎて俺の頬に優しく触れる。

軽く唇を重ねるだけの口づけを交わした後、シルバーは俺の腕の中で少しだけ泣いた。



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